名前のないうた
何もないように思った。入れ違っている僕らは、通り抜けるひとびとの群れに、ただ感嘆も驚愕も見い出せず、屋根の上から零れた憂鬱を掬いあげるしかなかった。きみが可愛いと思うものは今もブラックホールに走り続ける結末だ。降る雨が僕らの内臓を流していくのなら、無限に引き込まれた過去も未来も一緒に河となって次代に繋がっていくのだろう。それを見たいと願うのは恐らく傲慢だ。
遠い春の陽射し、ただ光だけが鮮やかな場所で風もなく揺られていたい。優しい匂いがして無性に泣きたくなるのは、ひとが水でできているから。流れた河の末が僕です。同じ母の胎から漏れ出た僕らは、果たして何になれるのだろう。何もないように思った。