孤独になるための旅
ああ、私は愚か者だ
寂しさのあまり、人を傷つけてしまった
その人を、泣きそうになるまで追い詰めてしまった
罪悪感で胸がいっぱいだ
『愛してほしい!』
この感情は、どんな時にも出てきてしまう
他者に求めても、苦しいだけなのに
頭でそれが分かっていても、どうにも上手くいかない時がある
孤独を、心から恐れている
だから、今日私は
敢えて孤独になるために、旅に出た
その方が、きっと落ち着く気がしたからだ
仕事は少しお休みを貰い、早引けして帰った
そして、自転車に乗って、気ままに走ってみた
風が、私の体中を吹きつける
べっとりとしたイヤな汗が、少し爽やかにすら感じる
ああ、気持ちがいい
いつも自転車で通勤しているはずなのに
この時は、妙にいつもより
風が吹いていた気がする
近くの公園についた私は
少し周りを歩いてみることにした
その公園の裏は、ちょっとした森になっていて
瞑想とかするには、良いとこかも知れないと考え
樹々が繁っている中を、私はずんずん進んでいった
すると
奥地に、ベンチがぽつんと
ひとつだけあった
お、ここに寝てみようと思い
ごろんと寝転んだ
ああ
目の前いっぱいに、青い空が
こんなにも、空は高かったのか
こんなにも、空は大きかったのか
どこにも端はないし
どこにも上限がない
この空の向こうには、宇宙が広がっていて
果てしない空間があるのか……
この空にとっては
私のしてきたことなど、些細なことでしかなくて
何もかもを、許してくれそうな気さえしてくる
今度は
眼を、つぶってみた
蝉の鳴声
鳥の羽ばたく音
蚊の飛ぶ音
土を踏んで歩く、野良猫の足音
樹々のざわめく音
……そうか
私は今、地面に住むモノの音を聴いているのか
どんな生き物も、地面と接して生きているのか
私も、地面に
しっかりと踏ませてもらって、生きているんだ
私を包む、空と地
これによって、私は生かされている
そうか!
そうだったんだ!
空と地こそが、愛だったんだ!
全ての生き物は、この二つのおかげで生きている
空も地も、何者も拒まない
そのままを受け入れてくれる
生きることを、肯定してくれる
そうだ!
愛とは!
他人から貰うものでも、自分から産み出すものでもなく
既に、ここにあるものだったんだ!
そうだ!
ここに、愛はあったんだ!
そして、私は
孤独なんかじゃなかった!
空と地がいてくれるじゃないか!
私のことを、何もかもを認めてくれて
許してくれて
『そのままでいいよ』と
『生きてていいよ』と
空と地は、私を愛してくれていた!
なんということだ!
孤独になるための旅が
孤独でなかったことを知る旅になるとは!
ああ!
嬉しい!
私は、やっと気づけた!
空と地が、私たちを愛していることに!
叫びたい!
この見つけた喜びを、大声で叫びたい!
アルキメデスが、『エウレカ!』と叫んでまわったように
私もこの発見を
誰かに伝えたい!
愛は、ここにあったんだ!