ポエム
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夜の信号機
おれは、夜勤を終えて帰宅する途中だった。

もう真夜中の十一時。

そんな時間帯に、車を走らせて家へ向かっている。

無論、車なんぞおれのだけさ。誰もいない道を、気楽にのんびり走って、ごきげんな音楽でも鳴らせば、案外と夜の運転も悪くない。

そんな時、信号が赤になったのが見えた。

ブレーキを踏み、停止線の前で止まった。

おれは車内に流れる音楽をぼんやりと聴きながら、信号が青になるのを待った。

……さっきも言ったが、辺りを見渡しても車ひとつ、いや通行人すらただの一人もいない。

だから、信号を待っているのは、おれだけだ。

おれの交通規則を守らせるためだけに、信号機は動いている。



ふと、その時思ったんだ。

信号機は、この夜中も、ずっと変わらずに動いている。

なんのために?

おれがいなくなった後の、あの信号機に、一体なんの意味がある?と。

誰もいない、必要とされていないのに、信号機は動き続ける。

今までも、これからも、ずっと果てしなく変わらずに……



……おれは、さっきまで心地よく聴いていた音楽が、急に雑音のように耳障りに成り始めたので、スイッチを切って止めた。

しん、と空気が冷えていた。

信号が青になった。

アクセルを踏んで、前進する。

バックミラーで、ちらりと後ろの信号機を見る。

また、赤に変わった。

もう誰もいないのに。

信号機は変わらず動いている。

今もずっと。


20/07/12 22:50更新 / すっとこどっこい



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