ポエム
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消えた家族に、小さな祈りを
車が、あったんです

通りすぎた廃墟のそばに

軽自動車だったな、たしか

随分と古い外見をしてましてね?

ええ、もちろん、もうガラクタ同然ですよ

塗装なんかも剥げてるんです

ツタも絡まってて、埃まみれで

しかしまあ、そんな車は、田舎なら案外どこにでもありますから、特段珍しくもないでしょう

けどね、私はふと気がついたんです

後部座席に、ほら、あれです

子ども用のチャイルドシートが、そのまま置きっぱなしになってたんです

そこの家のお子さんが、使ってらしたんでしょうね

ただ

それを見た時、私ね



泣いてしまったんですよ



だって、その車にはかつて、子どもが乗っていたんでしょ?

家族で買い物や、ドライブや、きっと旅行にだって、その車で行ったことでしょう

子どもがはしゃぐ様子を、親は微笑ましく眺めていたと思いますよ

楽しい思い出も、日々の暖かさも、その車と共にあったはずです

けれども、もうその車は今、そこに置き去りになっている

子どもたちも、その親も、そこにはいない

それがひどく、寂しくて

寂しくて

でも、同時に

すごく嬉しかったんですよ

その家族が今どこで何をしているのかは、分かりません

もしかしたら、夜逃げでもしたのかも知れない

もしかしたら、みんな死んでしまったのかも知れない

けれども、とある家族がそこで、子どもと一緒に過ごしていたということは、絶対に間違いないんです

絶対に幸せだった時が、あったはずなんです

それがとても、嬉しくてね

もちろん私には、その家族とはなんの関係もありませんけど

その家族が、今も幸せだったなら良いなと

心からそう願ったんです


20/08/29 01:15更新 / すっとこどっこい



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