ポエム
[TOP]
あの人の背中
あの人は、いつも

背中を丸めて座っていました

じっと、少しも動かずにいたのは

泣くのを堪えていたんだと

大人になってから知りました



どうしたの?と声をかけても

「なんでもない」

と、言われるばかりで

若くて経験不足の私でも

『お前には、私の気持ちはわからない』

そう言われていたんだと、察することができました

だから

そんなあの人のもとには

誰も近寄りませんでした

近寄ろうとしても、拒絶されるのなら

周りの人は、わざわざ近寄りなどしない

助けようなどとはせずに

そっとしておこうと、考える

そのためあの人は

いつも独りでした



そして

幾年か過ぎた頃

あの人は、風のように消えてしまいました

今はもう、どこにいるのかも分かりません

でも時々

私は思い出します

誰も抱き締められなかった、あの人の背中

本当に、そのままで良かったのだろうか?

私は、無理にでもその背中を抱き締めるべきじゃなかったのだろうか?

だが、それは

あの人が望んでいなかったのだから

結局こうして去っていくのを、ただ黙って見ている他なかったのか……

今もひょっとすると、あの人は

背中を丸めて

黙って泣いているかも知れません


20/07/27 23:08更新 / すっとこどっこい



談話室



TOP | 感想 | メール登録


まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.35c