ポエム
[TOP]
遺書
『拝啓』

使い方は知らない。
でも書いとくものなんでしょ。

『これをあなたが読んでいるということは,私はきっと死んだのでしょう。』

ありきたりな始め方。
でもこれが良い。

『私は何で死んだんだろう。
 事故? 自殺? 病気? 事件?』

生きてるうちに,自分の死因なんて知れないよね。

『今まで,ごめんなさい。』

自分の人生と,私に関わった人全員への,謝罪。
生きていれば謝ることだらけだ。

『今まで,ありがとう。』

これも本心。
生きていればごめんなさいと同じくらいありがとうもあるんだと,実際書いてみるまで気付かない。

『みなさんお元気で。』

私以外の,全員の健康と幸福を願う。
みんな,幸せになれたら良いのに。


私は,遺書をよく書く。
よく書くものじゃないとわかってはいる。
もはやそれは遺書とすら呼べない。

私は遺書を書いて死ぬ。
死んだ気になる。
生きている間のもやもやを紙に吐き出して,自分の罪と後悔と謝罪と感謝を目に見えるように書き出す。

ちょっとだけ,楽になる。
数時間,数日,数週間に一回,死ぬ。

さっきまでの私とは違う私になって,生き直す。

生き直せたら,良かったのに。

結局すぐに私は私であることに気付く。
でも止められない。
もう癖みたいなものだ。

いつかこの大量の遺書が本物になる時。

私はどんな気持ちになるんだろう。
25/06/01 23:51更新 / うみそら



談話室

■作者メッセージ
少し前のことですが。
書き溜めていた遺書やら小説やらポエムやらが母に見つかりました。私はアナログな人間でしたので紙に書いておりまして。
とんでもなく気まずく恥ずかしくなりました。
母には怒られるし全部その日に捨てられました。
ちょっと悲しい思い出です。

お読みいただきありがとうございました。

TOP | 感想 | メール登録


まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.35c