ポエム
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あなたへと贈る物語(無名で感想を残した者です)
勇気がなく
名前を伏せてしまいました。
ごめんなさい…。

あなたは真摯(しんし)な想いを
僕に届けてくださった。


僕もあなたにだけ届けます。


この物語を
あなたへ贈ります。
最後まで読んでくれると嬉しいです。


―――


――


―。


この物語の主人公は
"僕" ではない
"あなた" でもない

それでも完成させるのは
"自分自身" です



― 長い長い螺旋階段を
ずっと上り続けていた

カン、カン、カン…と
乾いた音を鳴らす靴だけが
静寂を照らしてくれている


あとどれくらい
進めばいいのか?

そもそも、
どこへと向かっているのか?

果などない延々に思えた



階段の手摺(すり)から
現在を確かめるように
真下を見下ろす

真っ暗闇だ…
深淵を覗きこんでるみたいで
深い深い闇だけが
塗りたくられている


そして
そのまま上を見上げてみると
不思議なことに この螺旋階段は
次元が歪んでおり

逆さま 左右逆転

無限を繰り返すループ

など 様々な螺旋階段が
存在していたのだ


私が 今 上り続けてる階段は

「" どんな名の階段なのか? "」


なんだが無性に気になって
不安を抱いてしまった


だけど
私を案内するかのように
階段の両脇に設置された
たくさんの行灯(あんどん)が
ほんのりと
灯してくれていたのだ


だけど
私を常世(とこよ)へと
誘うかのように
階段の両脇に設置された
たくさんの行灯(あんどん)は
私が進むにつれて
一つ また 一つ と
冷たく消えてゆく…


「なんだか人生みたいだな…」

と 私は自嘲(じちょう)した


ようやく螺旋の終わりを
迎えるようだ


ほっと
安堵のため息をこぼす


螺旋の終りの先には
ぽつん と寂しく
寝起きざまにみるような
そんな幻の部屋が
一つ 目の前に現れた

螺旋階段の下を覗いた時と
同じくらいの感覚
部屋には影の帳が落ちていた


部屋の扉は少し開いており
隙間からは
僅かな光りが零れている


だけど おかしい?


覗き込んでも
部屋の中は黒一色で
他の色彩なんてものは
見当たらない



そんな悍(おぞ)ましい
部屋に思えたが…


でも よく目を凝らすと
部屋の中央には
うっすらとだが
色彩が辛うじて
存在していたのだ


フードを被った人物が
その部屋の中央に立っていた


私の存在に気づいたのか


「待っていたよ」

と はっきりとした口調で言った


私を待っていた?
それとも人が来るのを
待っていたのか?
どちらにしても
よく分からない言葉だ


暗い部屋
その中に存在する
フードの人物
合致しあって
さらに得もしない
異様な空気が
周囲を満していた


「こっちにいらっしゃい」

と 意外にも優しい声で
フードの人物は招く


そして 同時に
暗くてよく見えなかったが
ランプを手に持っていたらしく
そのランプに
灯(あかり)をともした


フードの奥が見えると
期待したのだが
全く期待を裏切られた

確かに顔は見えたのだが
怪しいマスクを着けており
素顔は見えなかった…



怪しいと思いつつも
その先にある誘惑には勝てず
ゆっくりと
緊張した足どりで
部屋の中へと踏み込んだ


その瞬間―――
部屋全体がパッと 明るく照らし出した



部屋の中には
何も描かれていない
真っ白なキャンパスの
額縁がたくさん飾られていた


「額縁にネームを
刻んでみませんか」

と フードの人物に訪ねられた


名を刻むと その者の色が
キャンパスに現れるらしい


自分の名は不必要に思えた

だから私は
刻む必要はない と答えた


フードの人物は続けて答える

「でしたら、
他の方の名を刻んで
想いを残してみませんか?

想いの色が形として
残せますよ?」と…


「それも必要ありません」

と 淡々と私は言い放つ


「どうしてです?
せっかく名を残して
後世まで受け継げる
チャンスだというのに…」

甘い言葉で惑わすフードの人物
その声は少し悲しそう


それでも私は…

「いいえ、必要ありません。
ただ、描(えが)いてほしいとは思う」


「どういうことです?」

と フードの人物が
疑問をなげかける


それに対して私は
こう答えた

「この絵は未完成。
真っ白なキャンパスで
まだ誰も描(えが)いていない。

描きたいと思う人に
描いてもらいたいと思った。

繋ぎ止めてほしい…と、
想いのバトンを渡されたんだ


見返りなんて
求めてはいなかったけど、


それでも
やっぱり 嬉しかった
正直 驚いた

たった一つの言葉を
あんなにも真摯に
受けとめてくれたんだ。

だったら私も、
繋げなくちゃならない。


惑わされないで。


自分にしか描けないものが
あるんだと知ってほしい


だから私は、
誰の名も刻まない。
フードのあなたは信用できない。
名を託すことなんてできない。


ましてや、誰かに言われて
描こうなんて思えないよ。

キャンパスは
自由に描(えが)くものだよ。

そこに権利や
義務なんてもは存在しちゃ
ならないと思うんだ。

値がつく絵は
確かにきれいだよ。

だけどその絵には
なんだか宿命のような…
業のような…
本当の自由というものが
感じ取れなかった
そんな風に
重いものに思えてしまう


ちょっともどかしいものが好き


良い絵を描(えが)こうとしなくとも
描きたいものを
自由に描(えが)けばいいんだ

きれいに描(えが)く必要はない
歪んで見えたとしても
そこにはきちんと読み取れる
色彩(言葉や想い)があるから


描(えが)くも、辞めるも、
それを続けるのも、
結局は自分自身なのだから。

だからこそ、私はここには
名は刻まないでおきます」


そしてフードの人物は
悟ったのか…

「そうですか…。
分かりました。
それがあなたの "絵" ですね。
でしたらこの絵は保留にして、
このままここに
飾っておきますね」


私も同意を唱える

「ええ、お願いします」


最後の確認を
フードの人物は口にした

「あなたの名は
本当に刻まなくて
良(よ)いのですね?」


私も
はっきりとした口調で
こう答えた

「構いません。
私にはしっかりと
あの言葉が胸に
刻まれてるから」


私がそう 確信した瞬間
真っ白なキャンパス全てに
豊かな色彩が現れた

やっぱり 名を刻まなくてよかった

この部屋のキャンパスには
元々の色が存在していたのだ

見えないだけで
隠れていたんだ

ここには確かに
自身の色があったのさ
22/01/31 13:57更新 / 風磨



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