ポエム
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記憶に残る人
全く縁もゆかりも無い人なのに
強く記憶に残る人がいる

名も知らぬその人も
そんな中の一人だった

50代と思しきその人は
交通量の多い道沿いの
閉店したラーメン屋さんの軒先で
とんぼ玉を売っていた

手書きのプラカードを両手で持って
テンポよく体を左右に揺らし
道行く車にそれを見せる

1個3,000円の得体の知れないとんぼ玉
一体誰が買うだろう

停車中にふと見ると
「出雲大社で祈祷済み」
と書かれたポップが見えるが
はたしてそれは本当だろうか?

暗くなると今度は体に電飾をつけて
ギラギラと輝きながら
昼間同様プラカードを持って
ゆらゆらと体を揺らし
道行く車にアピールするその人

風の便りに聞くところによれば
車の中から手を振れば
その人は手を振り返してくれるらしい

そして前職ではある回収業務をしていて
休憩中にいないと思えば
道にしゃがみ込んで蟻と戯れていたらしい

かなり異色なその人は
いつしか市内の有名人となった

そんなある日
とんぼ玉の店から2km程離れた幹線道路沿いで
その人が真っ白なペキニーズと散歩しているのを車の中から何度か見た

ある時はその犬をのんびりと歩かせ
またある時はその犬を優しく抱きながら
そこはかとなくマイペース感を漂わせるその人

名前も知らない
縁もゆかりも無い
その人は

もしかするとどこまでも純粋で
邪心のない人なのかも知れないと
ふと思った

ところであのとんぼ玉は
一体どのくらい売れたのだろう?

気づいた時には
とんぼ玉の店はもうなくなっていて
幹線道路沿いで犬の散歩をする
その人の姿も見かけなくなった

縁もゆかりも無い
独自のパフォーマンスで
とんぼ玉を売るその人

今はどこでどうしているのだろう?

もしかするとその人は
人の心を和ませるために現れた
おじさん妖精だったのかも知れない

25/08/30 17:54更新 / 志月

■作者メッセージ
おじさんの姿の妖精がいると言いますよね(*^_^*)

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