ふと思うことがあるんです
人の背中には人生が見えるって

それはもうずっと前のこと
ほんの少しの間だけ
介護の仕事をしたことがありました

そんな時
ある92歳の女性利用者さんの背中を見てとても愛おしいと思ったのです

この方が歩んできた人生の全てを
私がわかるはすもないけれど

日の当たる施設内のホールで
椅子に座り物想いにふける
その女性の少し前かがみの背中に
表現しがたい愛おしさを感じたのです

この世に生を受け
いろんなことで泣いたり笑ったり
きっと恋もしたでしょう
そして夢破れたこともあったかも知れません

その繰り返しで92年歩んできた
ひとりの女性が今
言葉もなく目の前に座っている

そんなその人の背中を見て
その命が愛おしくて
私は泣きそうになったのです

御夫婦揃って教員をやっていたと
そして時々山にキノコを採りに行ったと
私に聞かせてくれました

いろんなことを忘れていても
大事なことは覚えてる

そんなその人の
綺麗な背中を今も時々
私は思い出すことがあるのです

どの命もみんな尊くて
どの人もかけがえのない歴史を
魂に刻んでいる

そのことを忘れずにいたら
きっとみんな人をいたわることができるに違いない

そんなふうに思うのです