ポエム
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桜に思う
先日の雨で積雪がゼロになっていた我が街は、今朝カーテンを開けるとまた湿った重い雪に覆い尽くされていた…。

春なのに
もう春なのに
その訪れを阻むかのように
重い雪が地面いっぱいに降り積もっている

関東ではもう桜が咲いているらしい

…いや、もう満開の頃は終わったのだろうか?

我が街が桜の満開を迎えるのは、いつもGWに入ってからのことで、その頃になると市内の桜の名所に、市民や観光客など、たくさんの人が押しかける

静かに桜を愛でたいなとよく思うのだが、あの戊辰戦争の最後の地となった特別史跡に幻想のごとく咲き乱れる桜を、一目見たいと思うのはみんな同じなのだろう

敷地内に佇み見上げる桜も綺麗だが、かつて敵の砲撃を避けるために築かれたであろう土塁の上に立って見下ろす満開の桜は、まるで天界に敷き詰められた淡いピンク色の絨毯のようで、見るものを一瞬にして幻想的な世界に誘ってくれるのだ。

私はその土塁の上から見下ろすこの世のものとは思えぬ桜の様子は、まさに別世界の空間だと思っている。
でもその美しさはどこかもの寂しく悲哀に満ちているような気がするのだ。

かつてここで戦った志士たちも、この桜を見たのだろうかと以前は思ったが、後に桜はたくさんの死者を弔うために植樹されるものなのだと言うことを知って、言い知れぬ物悲しさに包まれたことがあった

戊辰戦争の最後の地であるこの場所が、その後何万もの桜が咲き乱れ、この世のものとは思えぬ幻想的な美しさで見る人の心を魅了する憩いの場所になるということを、あの志士たちのうちの誰かひとりでも想像しただろうか?

きっとただひたすらに、自分たちの理想の実現に向けて、彼らは戦い抜いただけだったのだと思う

それを思うと、毎年のこの現世のものとは思えぬ桜の美しさを、厳粛な気持ちで目に収めたいと、いつもそう思うのだ

あの桜が、どこか悲哀に満ちて寂しげに感じるのは、かつてここで理想の実現のために戦いながらも叶えることのできなかった、志士たちの無念の思いがここに染み付いているからだろう。

その後百年近くもの時を経て、この地に生を受けた者として、ここで散った若き志士たちに、この筆舌に尽くしがたいほどの美しい桜を捧げたいと思う

25/03/17 12:06更新 / 志月

■作者メッセージ
このようなことをふと書きたくなったのは、彼岸の入りだからでしょうか…?

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