鏡の向こうに映るショートボブの私は
ちびまる子ちゃんかなと一瞬思った

私の髪を整えながら
いつもさりげなくヘアケア商品の販促をするオーナーは
やっぱり商魂たくましいなと
今日も思った

既にその商品を使って
髪に良い変化が表れた人たちの話を
笑顔で語る
その朴訥な語り口調の中にも
客に対する駆け引きが見え隠れするような気がした

「これを買って2ヶ月後に来店した人の髪の毛に圧倒的なコシとハリが出ていて僕も驚いた」と切々と語るオーナーさん

その言葉にかなり心が揺らいだ私
「買う時は高いけど半年は持つ」
というオーナーさんの言葉に思わず心が前のめりになる

…がしかし

全てが終わって支払いをする時に
意外にもオーナーさんからの
「最後の一押し」がなかったのだ

だから私は何も買わずに店を出た

「今年もありがとうございました
来年もまたよろしくお願いします」

その言葉だけで私を見送ったオーナーさんは
オーナーなのに押しの弱い人だなと思ったが

やっぱりこの人は
いい人なんだろうなと確信を持った

必ず販促はするけど
決して押し売りしないオーナーさん

施術中も客を傷つける発言を
決してしないオーナーさん

だから私は
ちょっと遠いこの美容室に
数ヶ月に一度
足を運んでいる

そしてもし今日オーナーさんから
帰り際に「最後の一押し」があったなら

私はもしかしたら
その商品を買ったかも知れない

それを逃したオーナーさんは
どこか憎めなくて
そしてやっぱりいい人なんだろうなと思った

■作者メッセージ
今日の美容室での出来事を
淡々と語ってみました(笑)