友愛と言う言葉がこの国にあることを
私はすっかり忘れていた

愛のつく言葉はこの国にはたくさんあるが

その半分くらいを受け入れられなくなってから、もう何年経つのだろう？

人の心の根底には必ず愛があると信じたい

でもそれが信じられなくなってから
もうかなりの年月が過ぎ去ったような気がする

そんな中ですっかり忘れていたのが
友愛と言う言葉だった

思えば私が幼かった頃
父が使っていた大きくて頑丈そうな湯呑みの表面に
愛のつく言葉がたくさん書かれていた

その中にあったのが友愛と言う言葉

幼心にその意味はなんとなくわかった

そしてその言葉は
他の愛のつくどの言葉より
私の心に印象強く残ったのだった

でもその言葉を
私はもう何年も完全に忘れきっていた

それはたぶん今の世の中に
その言葉に相応しいものが
全く見つけられなかったからだと思う

そしてそれ以外にも
父のあの湯呑みに書かれていた
愛のつくたくさんの言葉を
考えてみれば私は何ひとつ覚えていない

今の私にあるとしたら
それはたぶん母性愛だけで

それ以外の愛のつく言葉を
手に入れることは
今の私には難しいのかも知れない

■作者メッセージ
父が当時使っていた湯呑みは
たぶん行きつけのお寿司屋さんからもらったものだったのだと思います(笑)