ポエム
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彼との3日間
先日のこと
とても綺麗な虫の音が
その日はずいぶん近くに聞こえた

ベランダにいるのかな?
それにしてもここは3階
ここまでよく来れたよな

そんなことを思いつつ
特等席で虫の音を聞くかのような
満足感に浸る夜

だがしかし
彼はベランダにはいなかった

なんと気づけば私の部屋で
チロチロチロと鳴いている

道理ですごく近いはず
音声多重の迫真の音

彼の姿は見えずとも
確かにここでこの部屋で
彼はひとりで鳴いている

翌朝私は
掛け布団の陰に彼を見た…!
体の横には茶色の模様

彼の見た目と声を頼りに
ネットで検索してみると

彼の名はエンマコオロギ

計らずも私はそんな彼と
一夜を共に過ごしたのだ

彼はどうやら物陰が好きで
家具の向こうに身を潜めている

私が覗くその気配に
彼はすぐに反応し
タタッと向きを変え
力強く跳ねる…跳ねる!

私は怖かった
彼に出ていってほしかった

でもあんなに素早く跳ねる彼
私はとても掴めない…

2日目の夜
彼は全く鳴かなかった

思えば何も飲まず食わず
…そうか、彼は弱っているんだな

そう気づいた私だが
なすすべもない
虫のことには無知だから…

次の日の朝
玄関ドアのすぐ前に
彼は秘かに佇んでいた…

これはチャンス!
と私は思い
玄関ドアをそっと開けた

すると彼は
自らの足で外へ出た…!
明るい方へゆっくりと
彼は歩いて出ていった…!

それを見届けた私は
静かに素早く戸を閉めた

良かった!
これでいいんだ!

彼はきっとまた土手に戻って
草を食べ水も飲み
元気に鳴いてくれるだろう

今夜あたりまた彼は
みんなと一緒に鳴くのかな…

そう思って少し嬉しかった



でもその後

数時間してなんとなく
玄関ドアを開けてみると

彼はまだそこにいた

よく見ると
そこで彼は息絶えていた…

自分の足でしっかりと
外に出ていったのになぜ?

…考えてみればその時彼は
跳ねて外に出なかった


そうか
もうかなり弱っていたんだな…

どこからともなく
私の部屋に訪れて
虫の音を聞かせてくれた彼

とても綺麗な音色だった

小さな虫にも五分の魂

なんだか私は悲しくなった

そんな彼との3日間
きっと私は忘れない





24/09/09 14:10更新 / 志月



談話室



■作者メッセージ
鳴いていたということは
エンマコオロギは雄だったんですよね。

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