島村さんの、息づかい
1.
薄緑の風が桜を散らすと、花びらひらひらイチゴにキスしに泳ぐよに。
それは愛果が今朝見た夢で、野外でケーキを作れたら夢のようだと彼女は思う。ガラス窓の向こうの水色の空を、雀が逞しく右に飛んで行ったところ。
そっと目を瞑る彼女から、それなりの距離にある時計台はいま。
2.
春霞。なあんてね?煌めいてるのは愛果様だけでいいわ(!)と言うのは、町の女流詩人の島村さん。凛、
とした高い鼻で嗅ぎ回る雌ハイエナ感が、モスバーガーへと雪崩込むー「ようこそ、時計台店へ」
まだ肌寒いというのに黒の半袖シャツに胸チラ見せ。少年たちの視線チラチラ「あ~、ダルいわ~」ビクッとシマウマみたいに少年引きつる、でも知らんぷり。気だるげにスマホをスクロールする右手の親指水面撫でるよに揺れて。
3.
ヒラヒラヒラと蝶が店に迷い込み、「あらあらあら」とはしゃぐ愛果は夢見るように背を反らして、シャン!、
"イチゴを載せる最終工程、がんばりましょ?"言われてるよで頬紅くなり、胸くすぐられる快感に歌はレモンイエローのよに伸びて。
そのままに戸口へと歩いて、ドアを開ける。なかなか退出してくれない蝶の彼女にお花畑な夢を見た。
私は帰りたくありませぬ。健気で可愛いあなたの傍で、いつまでも舞っていたいのです。
気だるげに胸を反らせば小さな胸をじっと見られた気がしてキュンとなり、参ったなあと頭を搔くとヒラヒラヒラリと謝罪の舞い。やはりヒラヒラ空へ漂っていった暁には、そんなに崇められて、なんだか申し訳ないわあ~とベロベロに酔ってしまってて。
夜に彼女は、島村さんの夢を見た。古澤さんは小さな小さなあの蝶だった(!)彼女がどう感じたかを書き記すのは野暮というもの。
翌朝、島村さんがパティスリーを訪れた。「ショートケーキを一個、く、くれなくて?」雷に打たれたかのような切なさが雪崩込んできた。夢は現実になったのかもしれないと、愛果は思った。
「あっ。はっ、はい。すいません」
「えっ、えっ?全然謝ることなんてな、ないよ。あっ…」
二人は束の間、見つめ合ったー夏蔭で二人、愛果のたどたどしい詩を添削してくれる島村さんの、息づかい。