ポエム
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愛おしい夏蔭に




月光に
海原ゆらゆら、深夜2時

海風に白のカーディガンを巻き上げられて
まるで風に吹かれる蝋の火ね
なんて私は思った

ハハッ
ちょっぴり自分に、
酔っちゃってたかな

でも街路樹たちが緑の風を運んできてくれた今朝にだって
私の手は小さな折り鶴を織るように慈しみ深かったの

"そうだよね?"

"うん、もちろん、そうだともさ"と
小さなケーキたちが少年のように


いつもいつも輝ける青に
町も私も抱かれていた

抱かれているものとして
その恩返しをするようにして
ささやかながらも小さなものを抱き続けてきたよね

そう思うと
積み重ねてきた日々を夏の夜風が撫でてくれたような気がした


その朝も私は
慈しむような風に吹かれてパティスリーへと出社した

彼は新緑の煌めきそのもののように私の前に現れた

律儀で礼儀正しく子供っぽくもあるようだった
そんな彼に手渡された名刺は
いまも引き出しに眠っている

私の馬車は彼のキラキラした瞳に引かれて
魅惑的な街をガタゴトと荒っぽく走り始めた

あちらのカフェに
こちらの水族館

ねぇ君は
まるで内気ながらも健気なセイウチのようだ


雨音を聴きながら女の夢を見た
紅い椿の冬じゃなくて良かったと思った
ずっと紫陽花の水色を観ていた


そうしているうちにいつしか彼は
フェードアウトするように疎遠になっていき
気づいた折りには私は小さな世界に一人きりだった


私は小さな
小さな小さな世界で生クリームを織り続けるわ

そう思うと泣けてきたんだっけ

哀しみとも悦びとも知れない涙だったけど
でもなんだか心地よかったんだ


明くる朝のしっとりとした雨に
私はそっと目を瞑った

それはなごやかに私の
ささやかな歴史を洗い清めてくれるようだったから


天気予報が正しければ
明日には木々に
陽光が出逢う

ひんやりとした愛おしい夏蔭を
私は静かに想っている













25/06/10 07:22更新 / はちみつ



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