あなたのことが
あなたへの愛が
どうしようもなく湧き出してくるんだ
輝ける青に抱かれた町は
今朝はほんのり霧模様
淡い朝日 花屋さん
あなたは儚く夢見るような
水色の花を買うでしょう
しかと胸に抱いて
切なげに唇をうっすらと開くと
ありし日の想い出が薄緑の風に乗ってたなびいていく
ちょっぴりはにかみ屋の男の子に
「お~はよ~」って腰を
彼の腰にぶつけるように近づけ笑うと苦笑いが返ってきたんだ
"なんとなく寂しいわ"とあなたは胸に
しっとりとした母性溢れるほうれい線
"もうそんな歳じゃないんだわ"と上を向く
ため息はしかし甘やかに空に上がっていって
今もこの町のどこかにいるだろう彼の日々は
もしかすると一生見かけることはないかもしれない
それでもあの冬の寒波はたしかにともに味わったのだよね
チョコレートケーキを買ってひっそりとアスファルトを行く
歳月に彩られ褐色の増していたろうその頬を
薄紫の風になって撫でてみたかった
そう想うあなたの胸に暖炉が浮かんで火が揺らめいて
ささやかに燃えるチロチロとした火
大雪が空を横切り静かなる部屋
気づけばガランとした部屋にいた
あの日はしんしん牡丹雪
椿しんなり紅は迷える雌キツネを誘い
腰をくねらせ泳ぐよに来て後ろ足で立ち
花をひっかくか弱い前足
こらこらお花を傷つけちゃダメよ
いつの間にやら戸口にばあちゃんニッコリ眼鏡
お前さんや
ずいぶん大きくなりましたなぁ
なのになんだか哀しげな瞳
私はブルッと震えて身が締まったんだ
お祖父ちゃんはもういません
あなたを見ても誰だか分からないと嘆くでしょう
私ももうすぐお迎えです
いまのあなたが見納めだと
そう思うと胸が詰まるのです
あのころ私はいつもうっとりと舞っていた
お祖父ちゃんも当然のようにお地蔵さんのような笑顔で
天国からずっと見守ってくれているのだと疑わずに
私、欠落ってやつを思っちゃったり、してるのかな?
私はそのじつ乾いた荒地で
月だけを友に踊る夜を過ごしていたにすぎないのかもね?
夕方でもないのに切ないオレンジの風が吹く
ハハッと嗤って自分を嗤って
それでも街を
哀しいくらいに凛として行く、
あなたのことが、
胸の底から僕は好きだぜ