街に出る暇なんてありはしないの
胸のうちを海がゆらゆら揺れていて、
朝の光がきらめいている
なだらかな丘に遮られて海の見えないままに、
肌寒い風に吹かれてわたしはおじいちゃんを拝んでいる
静かで美しい墓地だ、わたし
ホントはしおらしい娘でもなんでも、
なかったんだよぉ、
と
気づけば涙が頬を伝って、
おじいちゃん、
こうして泣いてるわたし、
綺麗?
まるでおじいちゃんの苦笑いのようななごやかな風だ
あなたは不動の人だった
その厳しく細められた目で世界という空の模様をいつも精査しているようだった
夥しい文字列を日夜読み耽り、
さなかに浮かぶ夢幻に憂い続けているようだった
まるで生真面目な天文学者
わたしはふしだらな夢見る踊り子
なあんてね?
街へ行って綺麗な部屋に住んで、
可愛らしい蝶のように街路を行っても、
夜には匂い立つ鱗粉を残し行く切なげな蛾になるの、、
なんて想いはでも、
たとえばあの日の夏の海に、
グッと引き止められるんだ
浜風に吹かれたと思ったらオレンジが一つ、
空から夢見る雫のように落ちてきたの
わたしはクリスマスプレゼントを開ける女の子のよに胸ときめかせて皮を剥くと、
あら不思議、赤のお出迎え(!)
いまだってこの町には牛肉もあるし、
お酒は飲めないけれど赤ワインだってある
それからいかつい男の子たちだって(笑)
哀しいくらいに切なる想い出たちとともに、
そんなこんながわたしの胸を掻き乱すから、
その全部に負けたくないわたしには、
街に出る暇なんてありはしないの
この冬の日にあのなだらかな丘を越えれば、
広がるのはあなたみたいな、
厳しい厳しい冬の海
それなのにズルいよおじいちゃん
あなたはわたしに話しかけるとなると、
たちどころに甘やかな夕暮れで包み込むよな変わりよう
おかげでわたしあなたの前では、
産毛を撫でられるようであり続けなくちゃならないと、
いつもしおらしいロシアの猫のようでした
秘かに書き留めていた活火山のような詩たちを、
あなたに詠んでほしかったけれど、
わたしついに一歩を踏み出すことができなかった
これからは、
ありのままのわたしをあなたに見せたい
ありのままのわたしだけを、
あなたに見せ続けていきたい
凛と咲かせる紅の花
遥かな空から
見ていてください
それこそこのいま海風に
ざわめく色香のせたなら
空の上まで届くでしょうか
遥か彼方のおじいちゃんに
夢見る詩(うた)を届けたいの
ときには密林を行く
艶めかしい雌豹のようにだって、歌うわ