ブルーベリースムージー
「ハハッ、お前さ、弁護士になりたかったんだってな」
「なによ、悪い?」
「い~や。でもなんつーか、意外だったからさ」
「じゃ、なんでハハッて、笑ったのよ?」
「ごまかせねーな(笑)いやホラ、お前見てると正直、何考えてんだ?って思うときがある。心ここにあらず、っつーわけでもなくて、それこそオレなんかよりよほどしっかり作業してるんだけど、でもやっぱ心の10パー20パーくらい(?)は、たとえばどっかの草原の上にでも漂ってるんじゃないかってさ」
「わたしは10代の乙女か!」と突っ込んでおいたものの彼女は、胸の奥深くの泉をピチャピチャと悪戯され続けているようなくすぐったさを感じることになった。そんなフレーズとは裏腹に、"わたしを切なくしないで!"と、彼に気持ちをぶつけたくて仕方がなかった。
やわらかあい、夜だった。三日月の上にだって腰掛けれるよな心地がした。
するとギターのソロが始まるの。フルートなんかもいいけれどやっぱりギターで、それはギターの音色がやさしいお兄さんみたいだからで、お兄さんは夜空をゆっくりわたしに向かって歩いてくるの。
右手を取られていた。と、彼は月の椅子をスーッと滑らせるように彼女を下ろした。左に回って、今度は彼女の左手を、どうしてだか4本の手指だけ握って夜空へと連れ出していく。彼女は胸がキューッとなって、親指をブラブラさせて甘えてるのとサインを出した。ずっと高い左上を見つめていた。
でも、とうとう一度も彼は振り向いてはくれなかった。そもそもどんな顔をしていたっけ(?)と思った頃、彼女は自分が家の前にいることに気づい驚いた。まるで真空を歩いてたみたいだと思った。
「おかえり」といつものような母の声に、そしてその皺に安堵した。こんな深かったっけと正直驚いたけれど、わたしはあくまでこんな生々しい女(ひと)の娘なんだと思えた。
「お父さんは、やっぱりまだなの?」
「ええ。今夜も遅くなると、LINEが来たわ」
なんで今夜にかぎって、父さんの帰宅時間が気になったんだろう?お兄さんはカッコよかったけれどどこか非人間的だった。お父さんは…、お父さんは人間らしいけれど、お世辞にもカッコいいとは言えないわと、彼女は笑った。
チャリン、チャリンチャリン……居間にいた彼女はサッと立ち上がって台所に行く。冷蔵庫を開け、作っておいたブルーベリースムージーを、まだ席に着いてもいない父親に急かすように差し出した―「はい、お父さん?」「お、おう。でもちょっと待ってくれるか。まずは椅子に座って、ネクタイを緩めたいんだ」