町にはささやかな川があった
凛、
ともしも鈴でも鳴れば
この町に延び広がる静けさを知るでしょう
枯れ葉舞い
その20mほど奥から 彼女は
海も湖もないけれどささやかな川があり
それは彼女の来たる並木道の遥か西を流れていた
目を瞑ると川辺が浮かんだ
……
子熊のスニーカーの裏でまあるい石たちと戯れていたけれどそう、
私あの折りもう高校生だったはず
なんてことなの(!)と天を仰いでいた
桜の木の茶が新緑に見えて拍車がかかる
対岸の燃える緑に父の背に乗り抱かれていたのは小学生の折りだというのに
立派なブラジャーつけて父さんの背に乗るわけ、ないじゃない
水色のバケツにあまごがクルクル回ってたんだ
さすがに私も少しは釣らせてもらったはずだけれど記憶がない
不思議だな、まるで
わたし父さんの母みたいにやさしく父さんを見つめてたような…(?)
……
まったき光が上空から降り注いできた
彼女はふたたび目を瞑って母しようとして、
止める
藤の薄紫とブラの赤が胸のうちで衝突してしまった
と、
ビューッと風がうなりながらに吹き抜けていく
ハハッ
わたしってばふしだらな女、
なのかなぁ(!)
時が早回りして夜になってほしかった
窓から漏れるオレンジの甘さにただ浸りたかった
雨でもないのにわたしは灰色のレインコートを着るの
それは街路を独り行く女(ひと)
すれ違いには亜麻色の川が流れるでしょう
分厚い布地に赤が浮かんで踊るでしょう
むず痒さ抱いて帰途に着く彼の夜は
幾万の星々は跡形もなく没して
夜の黒にはただ雌豹だけが浮かぶ
ほどけかかった赤が闇夜を静かに垂れる
そうして彼を探るように振り返る