ポエム
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件名 昼食をご一緒して
昨日は、素敵な昼食を本当にありがとう。やはりオスロは輝かしい街ですね。わたしはなにか、この世ならぬ夢を見ているような心地がしました。

翻ってこの寒村に帰ってくると、しかしわたしはまたもや夢の世界に誘われていたのです。いつも暮らしているはずの、ずっと暮らしてきたはずの場所なのに、わたしはなんだか古の民の隠れ里にでも迷い込んだかのような、そんな錯覚を覚えたのです。もっとも、ここら辺りの集落はかなり集落ごとの間隔が空いているから、昔は実際隠れ里のようなものだったのかもしれません。

あなたがささっと送ってくれたおかげで、ここに帰ってきたときはまだ昼を過ぎたばかりのうららかな午後。雲間から太陽が覗いて、大地を覆うこんもりとした雪を溶かす準備にとりかかり始めたところでした。雪も太陽も小鳥も、穏やかに流れている時間も、静けさも、すべてはこの今わたしのために愛らしくしつらえられたみたいだった。

ふとわたしは思いました。百年というのは、この目の前の情景を感じ尽くすのには短かすぎるのだと。わたしは想像しました。千年のあいだここで同じ毎日を繰り返す、同じ情景を眺め、感じ続ける自分を―

いや―わたしは思いました。わたしは遥かなる歳月を、もうすでに送ってきているのかもしれない。昔から変わらないだろうこの寒村―雪、太陽、小鳥たち、穏やかな時間・・・、それらのただなかで、母もおばあちゃんもそのまたお母さんも、みなが生きてきた。わたしはそんな大いなる物語にたしかに包まれるようにして、この今存在しているのでしょう。

あなたとの昨日の昼食も、そんな物語の1ページとして刻まれたはずです。それがどんなノートなのか想像はつかないけれど、間違いなくたしかな、そして意義に満ちた1ページとして。あなたと昨日昼食をご一緒しなければ、あなたと出逢わなければ、わたしはこんな思いを抱くこともなかったでしょうから。



そうそう、わたし、部品の検査、8箱できるようになったんですよ。ようやく、考え事を抑えるコツみたいなものを掴めつつあるのかなと思います。

おおげさかもしれませんが、そんなちょっとした悦びこそが人生を彩ってくれるものなのだと、今ならそう心から思えるのです。


またあなたと逢える日を祈りつつ。
22/01/26 07:52更新 / 桜庭雪



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