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十年一日のごとく生きる
十年一日のごとく、という表現が、ふとすごく気になった。ググってみると、ずっと同じ状態で進歩や発展がないこと―そう否定的に書いてあった。けれどこの表現を思い出したとき、僕はすごく肯定的な感覚を抱いたのだった。

僕はいま、開き直ってこう考えている。進歩や発展がなんだ。変わらなさこそが最も大切ということだってあるんだ、と。もっと言うと、僕はいまそんな人生に強烈に憧れている。

つとに思うのは、友人との外出や新たな人との出逢いが大切なものとして感じられるのは、他でもなく毎日が単調だからだろうということだ。もしいろんなことがたくさん起こっていたならば、その各々の重要性は、他の各々に押されるようにして小さくなってしまうだろう。

僕はそんな風に、自分の人生というものが、実はすごく幸福なものなんじゃないかということに気づき、驚いている。そしてつまるところ僕は、そんな自分のいまの人生に憧れているのだった。

このいま僕は、相変わらず燻っていた都会への憧れが、もうすっかり消え去ってしまったのを感じている。

長い長い田舎道を、僕はずっと歩いている。季節は梅雨にさしかかった頃だ。一見何もない。けれど目を凝らすと、田んぼの稲穂が燃えるように鮮やかな緑をしていることに気づいた。耳を澄ますと 、蛙たちの合唱に呑まれそうになった。世界は相変わらず新鮮だった。

そうして僕は、道沿いの一軒家に入ろうと足を早める。大切な友人と、この心地よい夜に会おうと約束をしていたのだ。僕たちは互いに旅の疲れを癒すかのようにして、ただほんのひとときを共にするだろう。
22/01/23 17:32更新 / 桜庭雪



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