ポエム
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わたしを乙女にしないで!
気持ちの良い目覚めに寒さを忘れていたよう

私はパジャマの薄着のまま部屋を行きつ戻りつしつつ
踊るようにして鼻歌を歌っていた
カーテンを開けると一面うっすらと雪が積もっていて
今朝が冬の朝であることを思い出す

凛とした冷気厳かに
私はパジャマを脱いでいく
今日も無事でいられますようにと祈りながら
剣の入った鞘を腰に着け
白に映えるだろう制服の紅を思い
そしてはたと気づく―今日は休暇だった・・・

世界に静寂が降りていた

わたしはあの日に連れ戻されるようで

馬車ではるばる この北国の小さな町へ揺られ来たあの日
やはり大地がうっすらとした白で覆われていた
あの日

町が開けてくる
雪を戴いた砂糖菓子のような家々が見えてくると
馬車のなか厳粛に襟を正していた

そしてこうして目を瞑って祈ったのだ
どうかこの清らかな世界の
そのささやかな一助となれますように



"どんな男がタイプなん?"
ふいに、きのうの男の先輩の声が甦っていた

なんだったのだろう
あの胸が疼くような気持ちは

今度は男たちの流し目が現れて
1つまた1つと取り囲まれる

わたしは目を伏せたのだけどそうするほどに
どうしようもなくむずがゆくなって
とうとう胸のなか叫んでいた―「わたしを乙女にしないで!」



わたしはただ・・・
(彼女は切なげに窓辺に寄りかかる)


友でありたいだけなのだ
あの厳かな白たちと―


(彼女は静かに戸口から外に出る)


この剣に
この靴に


(彼女は立ち止まって、空を儚げに見上げ)


この両手に
わたしの頬に

寄り添うように舞ってきてくれる
このひんやりとした雪たちと
22/01/20 19:12更新 / 桜庭雪



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