ポエム
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弟に切られて。それから―
弟から、兄貴との関係はあっさりとしたものに留めたい―そう電話で言われて半年ほどになる。それ以来、僕は自分というものの核の一部が崩れたような、そんな喪失感を味わってきた。

僕にとって弟は、自らの思いの丈をありのままに話せる唯一の同性だった。父とは少し距離があるし、職場で懇意にしてくれている同僚の2人も、少なくともまだ親友とは言えない。

きっかけとなったのは、僕が弟に自作のエッセイ―とある女性への憧れを綴ったエッセイ―をLINEで送ったことだった。しかし反応がない。どうしても感想を聞きたかった僕は彼に電話をした。彼は言った―「押しつけられたものに感想もなにもない」まったく予期せぬ返答だった。感動を共有してほしいという切なる願いが一顧だにされなかったことに、僕は甚大なショックを受けた。僕はこう問わずにはいられなかった―「僕のイキイキとした感情は、一体何のためにあるのだろうか?それは大切な人(弟)の目を見開かせることすらできないのだろうか?」

半年経った今、冷静さを取り戻しつつある僕は思っている。考えてみれば、弟はこれまでも、感情的なものの吐露に対して、淡々とした反応しか、もっと言えば冷たい反応しか(ex 「それはそれでいいんちゃう」)返してくれなかったものだった。言いようのないもどかしさが胸の底から湧き上がってくるのを感じるとともに、僕は自嘲する。自分はどれだけ学習能力を欠いていたのだろうと。世の中には、他人の感情というものに対してドライな人々が一定割合で存在する。そしてただ1人の兄弟がそんな人間であったとしても、そこには何の不思議もないのだ。

なすべきことは―と、僕は前を向く。僕がなすべきは、淡々とその事実を受け止め、同性であれ異性であれ、自身の心の熱いものだったり機微だったりを汲み取ってくれる、そんな人たちに目を向けることだ。たとえ彼らの示してくれるものが十分だとは感じられなくても、そこには、この広い世界で結ばれた確かな1つの絆がある。僕はそれを信じていこう。すべてはそこから始まるのだ。
21/10/16 16:23更新 / 桜庭雪



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