ポエム
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銀の精、わたしの夢
「おはよリンちゃん、今日も頼むよ〜っ」
「はっ!銀の精第3分隊リンウェル、今日も精進いたします!」
「わはは、第3分隊たあ、どんどん細かくなってるじゃないの(笑)でも、仕事に誇りを持つのは良き事、良き事」

朝から"隊長"は元気だ。彼はこの大陸の主幹産業である「集精器」の金属部品検査の道30年のベテランで、この緑なす小さな町の作業場の長だ。 彼女も最初は事細かに検査のコツを指導してもらったが、見方の部分で、彼女のどうしてもこだわりたい箇所については尊重し、認めてくれた。そんな厳しくも人の心の配慮に富んだ彼を、彼女は心から尊敬している。

けれど誰より彼女が仰ぎ見ているのは、白き王都ハイデベルグでの研修の折に彼女を指導してくれた、40代の凛々しい女性の先輩だ。2,30代の精鋭たちにもまったく引けをとらない研ぎ澄まされたその視線は、まさしく、先輩の彼女の所属する王国直属の作業所「銀の剣」の名にふさわしかった。 研修を終えた彼女を待っていたのは残念な通達で、彼女は銀の剣に入ることは、彼女の下で働くことは叶わなかった。そうして彼女は故郷に帰って、そこの作業所で働き始めた。「銀の精」とは彼女のネーミングだ。大陸でも南に位置するこの町では、雪など降らないのだけど、銀の剣の張り詰めながらも凜とした作業風景への情景の記憶が、彼女にそう名付けさせたのだった。

この町で生きるのもまあ悪くないかな―彼女は今そう思っているところだ。輝く純白はないけれど、暖かく豊かな緑に囲まれている。海はないけれど湖があり、月の夜には彼女は寝床で、夜の明るんだ湖を泳いでいるような、そんな神秘的な抒情に浸るのだった。 雨の休日には雨靄(あまもや)に、ほのかな恋心を溶かすようにして窓辺にもたれていることもある。彼にはこの町に帰らなければ、出逢うこともなかっただろう。

朝家を出ると、彼女は青い空に町の紋章を見る。心安らぐ緑の木のデザインの紋章だ。作業場に入るとすぐさま、誰よりもしゃんとして検査にとりかかる。ちょっとだらけた作業所だけど、ここでだって使命に燃えることはできるのだ。

「銀の精」の誇り高き一員として、いつまでもこの日々を紡いでいくことが彼女の夢だ。
21/09/27 06:52更新 / 桜庭雪



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