ポエム
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傷心の夕暮れ
終了のチャイム前に会議室にいたら怒られた。僕はみなとは別棟で金属部品の検査の作業をしていて、終令もそこでして本館に戻ってくる。少し早く終令が終わるため、いつも戻ってきても本館のみなはだいたい作業をしている。僕はそんななか、一足早い休憩に会議室に行くのが常だったのだけど、今日は女課長が今日が最後だった実習生の人との振り返りのため、休んでいたその会議室へ入ってきたのだった。「いまチャイム鳴ったんですけど〜」と眉間に皺を寄せながら彼女は言った。その言い方が僕にはショックだった。その言い方も雰囲気も距離があった。僕は「あっ、ここって全然アットホームな職場じゃないんだ」とうなだれながら、会議室の隣の休憩室でおにぎりを食べていた。「(a型)作業所が無性に懐かしくなりました」と、懇意にしてもらっている1歳上の36歳の男の同僚に、帰り際扉の前言っていた。「たとえば、彼女(女課長)と僕らが話し込むこととかってまずないじゃないですか。でも作業所では休憩時間に相談なんて普通でしたもん」

別れて僕は駅まで1人歩く。自分が大きくなってるな、自分自分になってるなと自覚する。大切なのは少し離れた地点から観察することなのだと、言い聞かせる。殺伐とした(といっても比較的、程度だけど)職場で平の立場で健気にがんばっている、いい年の男。情けないっちゃ情けないけれど、これはありふれた光景なのだ。全国に仲間がいると思うと、なんだか愛すべき光景にすら見えてくるから不思議だ。そうだ―と僕は思う。自分というものを、映画のなかの、ささやかながらも愛すべき脇役、みたいに考えればいいんじゃないか。そうすれば変に気負うことも、いたずらに傷つくこともないかもしれない。いつか悩みをうんと抱えて僕の前に"主人公"が現れたら、僕は彼(女)に言うのだ―大丈夫、こんなおれでも生きてんだから。なんとかなるさ"
21/08/27 18:24更新 / 桜庭雪



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