ポエム
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胸のなかのなごり雪
この夕陽のなか
今もし家の箪笥(たんす)を開けても
剣には埃がこんもりと積もっていて
もう淡く光ることすらないかもしれない

この郷里の港町の波音はやさしく
暖かな潮風に吹かれていると身体まで弛んでいくようで
襟元を引き締めて任に就いた北国の日が懐かしく思い出される


田舎街の端に立って
冷気に身を浸しながら厳かに警備をした
目に映るのは
彼方まで広がる清浄なる白の世界
わたしは遠くの梢の1羽の小鳥とつかの間通じ合ったかのようだった

対して雪の街は重々しかった
街路を足をうずめて延々と巡回し続けたときの
張りつめていた厳かな緊迫感
ようやく任務を終えた底冷えする夜には
暖炉の炎がその姿を変え続けて止まない様を
思えば遠くに来たものだと
その先にこの故郷の波を見るようにして眺め続けた


翌日は休暇をもらい
朝から剣を磨こうと外に出た
庭に満ちる冷気が改めて新鮮だった
やがて剣の表面にまっさらな粉雪たちが落ちてきた
地面のこんもりとした白を背景に鈍く銀色に光る剣と
その銀色を背にした小さな雪たちの鮮やかな白
それは1枚の愛らしい冬の絵画のようで
剣を磨くのも忘れ
ざらついてくる雪たちを微笑ましく眺めては
任務に疲れたこの身を白いあたたかさで癒していた


あれからもう10年以上経つ
それなのに
わたしは飽きることなくあの北国の日々を思い返している

それはまるで
わたしの胸のなかのなごり雪



21/08/16 17:20更新 / 桜庭雪



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