ポエム
[TOP]
美しい方程式
彼女はいつも気だるげだ
そして気まぐれで、なにより規律を煙たがる

けれどひとたび机に向かうと
髪が逆立つかのようにその気は張りつめ
岩を砕くかのようにその手指は力強く動く

ノートに乱れ打たれた崩し文字に数式、記号
翳った瞳に仄かに宿る月灯り
彼女の頭の中がこのいま
厳かに開かれて行っているのだ

しじまの底のシンクの水滴
切りかけのオレンジの香り
右腕に巻かれた夜風になびく赤いリボン

それは星を揺るがす方程式の生まれる
その寸前の小さな小さな世界



わたしは文字を読んでるより身体を動かしてる方が好きなのと、そう語る彼女の幼なじみとは、けれどいまも女子トークをする仲だ。

見て、あの星綺麗だよ。ホントだ―そうやって2人丘の芝生の上に体操座りで並んでいた、あの夏の夜。

彼女は彼女に言う。なんか変だよ。わたし他の星なんて行ったこともない。なのに机の上だけで星と星の関係をブンセキしてるの。ときどき思うのよ。これってホント、ゲームなんかと変わらないやって。

ゲームでもいいのよと幼なじみの彼女は言った。そこにひむきさがありさえすれば。人の役に立ちたいなんて無理に思わなくたっていいのよ。人を救いたいなんて大層なこと考えなくていいのよ。あなたはただただ無我夢中に、文字と数字と記号のなかを泳いでいればいい。だってそれはわたしなんかがどれだけあがいたってできやしない、あなただけにしかできないことなんだから。

あなたはいつか教えてくれたわよね?星の光は大昔の光で、見えてる星の中には、いまはホントはもう存在しない星もあるんだって。わたしいま思ったの。じゃあこの夜空自体、ゲームと大して変わらない幻想の世界なんだって。だから、ねっ?

幻想、か・・・。ありがとう。あなたの気持ち、たしかに受け取ったわ。わたしはただ、美しい方程式を完成させることに生きるわ。
21/08/10 15:17更新 / 桜庭雪



談話室



TOP | 感想 | メール登録


まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.35c