ポエム
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人々の日々を記録するための旅
ここに、人々の日々を記録するための旅をしている1人の女性がいる。

彼女はひときわ美しい容姿を持っていて、彼女が通りすぎると大抵の男は―少年であれ老人であれ―、彼女の方を振り返ってしばし見とれることになる。

男が言い寄ってくると、彼女はつれない返事を続けてやり過ごした。けれど彼女は、日頃もそれと似たようなものだった。彼女は離人症気味で、いつもどこでもないどこかを眺めている。彼女は溌剌とした感情を失って久しいのだ。

しかしそれゆえだろう、彼女の記述にはまごうことなき客観性があった。その抑制された筆致で隅々まで描き出された丁寧な描写は、読む者をたしかな手触りのある1つの現実に触れさせることになった。各々の動作、表情、言葉、その3つが、あたかも主要な人物はみな等しく重要であるかのように淡々としながら綿密に、油絵を塗り込めるようにして描き込まれていた。しかし、感情を推測するような記述は一切ない。そんな冷徹なまでの中立性と客観性から読み手は逆に、各々のほとばしる情念に思いを馳せることになるのが常だった。

彼女にとっては、あるいは、感情というものは星のまたたきのようなものなのかもしれない。それは胸のなか仄かに明滅するかのようだ。何かがたしかにあるのは分かる。けれどそれははっきりとした形を持たないし、なにより、自分というものからうんと遠くにある・・・

それゆえにこそ―と、わたしは彼女のノートをめくりながらに思う(人、人、人、ときおり可愛らしい動物)。それゆえにこそ、彼女はもっぱら人々の心の触れあいをこそ記録し続けているのだ。人々の胸のなかに、かつての自分の姿を求めるようにして。

彼女が"星のかけら"を手にする日は来るのだろうか。それはわからない。けれど、人々に宿る十人十色の光たちは、たしかにあの物憂げな瞳に届いているはずだ。
21/07/10 19:17更新 / 桜庭雪



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