ポエム
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「人生、そんなにロマンチックにできちゃいないさ」
繁華街に出ようかという、しかしまだ騒々しさは響いてこない住宅街で、レンガ作りのショップの壁に背をもたれながら、僕はぼんやりと、自分の高くもなく低くもない背丈を思っていた。「いやっ、」と僕は思い直す。175cmという身長は、成人男性の平均身長が178cmというこの国にあっては低くないとは言えまいと、僕はその3cmという、微々たるように見えながらその実、相手に与える印象をそれなりの大きさで左右し得る目盛3個分の不足を、あたかも自らの至らなさそのものであるかのように感じてため息をついた。実際、僕はよく回る口もハンサムな顔も持ってはいない。

この先に足を踏み入れれば、そこはさまざまな男たちがめいめい目一杯のおしゃれをして、女たちの気を引こうと気取るようにして歩いている"男の展覧会場"なのだ。そこでは高い身長は、女たちを惹き付ける媚薬のようなものだ。

僕は想像した。持たざる者として、どこまでも謙虚に―と言えば聞こえはいいが、要するに意気地なく―、女たちに最小限のアピールを始める自分の姿を。僕はなるべく滑らかな動きをしながら席を譲る―僕は洗練された紳士ですと訴える気持ちで。僕はなるべくさりげなく流し目を送る―僕はさらりとした性格ですと訴える気持ちで。

そんなことしかできないのだと思うと惨めな気分が募ってきたけど、同時にまた、健気に生きようとする自分が愛らしかった。繁華街のすぐ前は海なんだけど、頬を撫でる風に海の香りはなくて、「人生、そんなにロマンチックにできちゃいないさ」とひとりごちると、踵を返して家路へと向かっていた。
21/07/04 15:51更新 / 桜庭雪



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