「お嬢ちゃん、出港だよー!」
「お嬢ちゃん、出港だよー!」
「すいませ〜んっ!」
そう言いつつ、わたしは船の中へと走り込む。自分をほとんど少年のように感じながら日々を過ごしていたから、自分が可憐な乙女なのだと思うと、なんだか可笑しかった。わたしは乙女、ズボンを履き長い剣を腰に差した乙女―。
エントランスと言っても小さいものだから、走り込んできたわたしは目立って、幾多の視線を浴びることになった。電気がビビっと皮膚に走った気がした(わたしはみなの目にどんな風に映っているのだろう?)。一応化粧はしているけれど髪は短髪で、多感な少年がそうするように上へ斜めへ立てている。誇りがじんわりと満ちてきて、わたしは凛々しい額を見せつけるように1人の青年を見つめ返し、また1人と青年を見つめ返す(やっぱり若い男の人が多いのね)。
「どこ行くの?」―わたしはビクっとする(後ろをとられた!)。あまりに勢いよく振り返ったものだから、青年は驚きの表情を浮かべた「ご、ごめんよ」
「えっと、ノルゼンへ」と、わたしはできるかぎりか弱いトーンでささやくように言う。それは、男という種族には疎いのだという暗黙のメッセージだった。
「そうかい、あそこは肌を刺すような寒さだからな。向こうに着いたら体に気をつけてな」男はあからさまな愛想笑いを浮かべて連れの男の元へと戻っていった(ふぅ〜っと、わたしは安堵する)。
距離のあるあいだは凛々しくいられるし、そんな自分に興味を持ってほしいと思う。でもいざ近づかれて関係を結ばれそうになると、縮こまるようにして不安になってしまう―やっぱ乙女なんだ、わたし・・・と、暗がりのなか1人ベッドで、近い天井を眺めていた。
わたしはノルゼンの雪を思い浮かべていた。待っててくれるのは、剣の道40年のおじさん。先生を見上げながら、ただ向上したいという気持ちを、曇った吐息に幾万回も乗せるのだ。そうして休憩時間にははるか空を見上げて、遠い未来に立派な剣士になれるよう祈っていたい―わたしを包んでくれている雪たちのような、まっさらな純真さで。
遠いいつかわたしと出逢う人、わたしが愛することになる人。どうかいまは、わたしが大人の女になるまで待っていてください。
「すいませ〜んっ!」
そう言いつつ、わたしは船の中へと走り込む。自分をほとんど少年のように感じながら日々を過ごしていたから、自分が可憐な乙女なのだと思うと、なんだか可笑しかった。わたしは乙女、ズボンを履き長い剣を腰に差した乙女―。
エントランスと言っても小さいものだから、走り込んできたわたしは目立って、幾多の視線を浴びることになった。電気がビビっと皮膚に走った気がした(わたしはみなの目にどんな風に映っているのだろう?)。一応化粧はしているけれど髪は短髪で、多感な少年がそうするように上へ斜めへ立てている。誇りがじんわりと満ちてきて、わたしは凛々しい額を見せつけるように1人の青年を見つめ返し、また1人と青年を見つめ返す(やっぱり若い男の人が多いのね)。
「どこ行くの?」―わたしはビクっとする(後ろをとられた!)。あまりに勢いよく振り返ったものだから、青年は驚きの表情を浮かべた「ご、ごめんよ」
「えっと、ノルゼンへ」と、わたしはできるかぎりか弱いトーンでささやくように言う。それは、男という種族には疎いのだという暗黙のメッセージだった。
「そうかい、あそこは肌を刺すような寒さだからな。向こうに着いたら体に気をつけてな」男はあからさまな愛想笑いを浮かべて連れの男の元へと戻っていった(ふぅ〜っと、わたしは安堵する)。
距離のあるあいだは凛々しくいられるし、そんな自分に興味を持ってほしいと思う。でもいざ近づかれて関係を結ばれそうになると、縮こまるようにして不安になってしまう―やっぱ乙女なんだ、わたし・・・と、暗がりのなか1人ベッドで、近い天井を眺めていた。
わたしはノルゼンの雪を思い浮かべていた。待っててくれるのは、剣の道40年のおじさん。先生を見上げながら、ただ向上したいという気持ちを、曇った吐息に幾万回も乗せるのだ。そうして休憩時間にははるか空を見上げて、遠い未来に立派な剣士になれるよう祈っていたい―わたしを包んでくれている雪たちのような、まっさらな純真さで。
遠いいつかわたしと出逢う人、わたしが愛することになる人。どうかいまは、わたしが大人の女になるまで待っていてください。