ポエム
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夏影に吹く風
散り桜のさなかで佇む姿が麗しかったあなたは、新緑になると影に隠れて過ごし始めていましたよね。そうしてこの灼熱の季節には、いつも夏影に護られて過ごされているだろうあなたが、なんだかとても可愛らしく感じられます。

でもそれは気高い白鳥のような可憐さで。この真昼のいまもあなたはきっと、けして気だるげにならず凛とされているのでしょうね。

僕のいるこのバス停では、高校生のカップルが、ソフトクリームを頬張りながら2人乗りで走り去っていきました。そのとき起こった一陣の風は、若さを失いつつあるこの身を一抹の侘しさで包み去って行きました。

もう僕たちは、どこまでも熱を抱き行く年頃ではないのでしょう。

でも、熱さだけが若さの証ではない。

中学生のころ、クーラーのない部屋で窓を開けて勉強をしていると、いまは亡き祖母がよく庭に水を撒いてくれたものでした。そんなものでと思いつつ、水が撒かれた後には、不思議と冷涼な心地よい風が吹いてきたのでした。

暑くなるほどに、わたしはあなたを、あのときのひんやりとした風のように感じるのです。

それは、どこまでも澄んでいて綺麗だ。そしてあまたの愁いをくぐり抜けてきた、深みのある優しさに満ちている。そしてそれはまたあの日の、この今日という日にも紺碧の空に浮かんでいる、遥かなる白い雲たちと友であるかのように初々しい。

このいま、あなたに逢いたいという想いはこの胸に収まらずに溢れ出しそうです。

叶うことならいますぐにでも、麗しいそよ風となって僕の胸を訪れていただきたいのですが。
21/04/26 07:17更新 / 桜庭雪



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