ひたむきな右頬
彼女はいま、ショートケーキに生クリームをやさしく両の手でしぼって垂らし、ゆっくりと容器を回していっているところだ。左にはリンゴやバナナなど色とりどりの果物が、窓から射し込む日射しを受けて淡い光を放っている。朝だった。
前だけでなく、彼女からやや離れた右側も透明なガラス張りで、静かに行き交う人々が垣間見える。
彼女の胸のうちには、そんな人々に紛れるようにして、ある1人の高校の同窓生が、自分のひたむきな右頬を一寸見ては去っていくという情景が、佇んでいるのだった。
つかの間手を止め彼女は、母校の時計台はそれでも、いまもあのときと同じように、変わることなく時を刻んでいるだろうことに思いを馳せる。
はるか湖を望む時計台を、整然と家々が取り囲んだ小さな町が広がる。もはや彼もいない、がらんとした町の広がり。
彼は去っていった、この町から、わたしから、一寸のためらいを残して―
導かれるようにして、彼女はその右手指でイチゴを一つ、ショートケーキの上に載せていた。
前だけでなく、彼女からやや離れた右側も透明なガラス張りで、静かに行き交う人々が垣間見える。
彼女の胸のうちには、そんな人々に紛れるようにして、ある1人の高校の同窓生が、自分のひたむきな右頬を一寸見ては去っていくという情景が、佇んでいるのだった。
つかの間手を止め彼女は、母校の時計台はそれでも、いまもあのときと同じように、変わることなく時を刻んでいるだろうことに思いを馳せる。
はるか湖を望む時計台を、整然と家々が取り囲んだ小さな町が広がる。もはや彼もいない、がらんとした町の広がり。
彼は去っていった、この町から、わたしから、一寸のためらいを残して―
導かれるようにして、彼女はその右手指でイチゴを一つ、ショートケーキの上に載せていた。