ポエム
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冬の夢に捧ぐ
ひたむきで、ぎこちなかった彼女
気弱で、はにかむのが常だった彼女
視野が狭くて、人の心がわからなかった彼女
思春期の少女のように、男に対して緊張していた彼女
そして
誰よりも輝く笑顔をしていた彼女



半年前に終わった、そんな僕の恋は、やっぱり上から目線の恋だったのかな。

もし彼女となにかの取り合いになったら、彼女は間違いなく僕にそれを譲るだろう。そして僕は堂々と、まるで僕が先に物をもらうのは至極自然のことだというかのように、それを手に取ったに違いない。

対人的な力関係において自分が彼女より上だという事実に、胸を誇らしくしていた自分がいる。もっと言えば、男としての誇りを感じていた。

でも、でも―断じて敬意がなかったわけじゃない。逆だ。

僕は彼女のひたむきさを、けして僕の持つことの叶わない感情として、崇めていた。いまもあの雪の日の彼女のまなざしは、静かな時の波紋のようにしてこの胸に満ちる。

僕は彼女のあの笑顔を、けして僕の湛えることの叶わない喜びとして、崇めていた。あの日々を彩った彼女のやわらかな笑みは、いまもこの胸を淡い黄のような色に染め上げる。

所有したい、従えたい、ときには怒った顔も見てみたい・・・そんなドロドロした人間くさい情の泥にまみれながら、それでもそんなさなかに咲くハスの花のような煌めきに酔うのが、恋ならば。

僕は恋をした。それは不完全でときに醜い恋だった。でもそれはまぎれもない、1つのたしかな恋だった。
21/06/18 19:04更新 / 桜庭雪



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