■ ペンネーム	:	桜庭雪
■ 公開作品数	:	107
■ コメント	:	2021.11/13 これからは、ブログ(はてな)に書いていくことにしました。 今まで読んでくださっていた方、本当にありがとう！ https://akihikotakegamin.hatenablog.com/ The venerable forest(神護の森) https://youtu.be/WnWoScMzs-A 輝ける青 https://youtu.be/ggTVedBexQ8 2021.7/19 『愛すべきシンプルさ』 自分がさまざまなことに思いを巡らしがちな人間だからだろうか、いかにもシンプルに生きているといった感じの人(特に女性に多い気がする)に、このうえない新鮮さを感じることがある。 さきに僕は"シンプルな"と言った。直訳すれば"単純な"になるけれど、２つのニュアンスはかなり異なっている。僕は"シンプルな"という表現に、透き通った純真さのようなものを託したつもりだ。 彼女たちは世界をどんな目で見ているのだろう？彼女たちは淡々としているように見える。でもそれはけして豊かさの欠如などではあり得なくて、そこにはいわば別の形の豊かさがあるんだろう。思うに彼女たちは、世界というものとの接点がこのうえなく滑らかなんじゃないだろうか。僕は彼女たちから、静かな透き通った水の流れのようなしとやかさを感じる。 実はこのエッセイは、かかりつけの病院の受付の女性とのひとこまから思い付いたのだった。あるいは、彼女が受付という、やはりシンプルと言うにふさわしい職種の女性だったことも、シンプルさということについて連想するきっかけの１つだったのかもしれない。 昨日の朝のこと。病院に行くと、僕はいつものように診察券と保険証を出す。見るといつもとは担当が違っている。僕は彼女をしかと見た。同年代ほど。素朴で、落ち着いた朗らかさを持っているような女性に感じた。 帰り。薬を薬剤師さんから受け取って歩き初めたとき、彼女がカウンターの右から向かって歩いてきながら声をかけてくれた。 「○○さん、精算機にカード忘れてましたよ」 僕は「あっ、すいません！」とカードを受け取って、戻りかけた彼女に「危なかった」と笑いながら目配せをした。すると彼女は微笑んでくれたのだけど、そこには実に愛すべき―そして深みのある―シンプルさがあったように、僕は思ったのだった。 それは仄かでありながら柔らかいものがたしかに伝わってくる、そんな笑みだった。それは一瞬のあいだ僕をしかと見つめたと思うや、いつ視線が外されたか分からないくらいの流麗さで流れ去っていた。ささやかさにかえって胸はじんとしてくるようだったけれど、その頃には僕ももう出口へと向かい始めていた。 ― ついでに言うと、そのとき初めて、僕は彼女のことを綺麗だと思った。 2021.3/13 「こんな僕にも世界の広さを伝えてくれる」 諦念も倦怠も生きている証なのだと、土曜の長い午後に思う。それらのえもいえぬ甘さは、自分をなにかの映画の主役のようにさせる。それは挫折した騎士の物語。 僕は背中を壁にもたれさせながら、気取るようにしてひとりごちる―"実に愛すべき旅路を歩いてきたのさ"と。 そうして目前に伸びる道をぼんやりと思う。胸踊る冒険が待っているわけでも、世界の命運を決するドラマを生きれるわけでもない。 けれど、この午後にも明日の朝にも、頬を撫でるそよ風は、こんな僕にも変わることなく世界の広さを伝えてくれる。 僕はそうしてこれからも、気だるげながらも悠然と、果てない日々を明日へと歩いていこう。 『王妃の流し目』 満月の夜に彼女は 大理石の階段を下りつつあった 街頭では腰に手を回された女たちが 厚化粧で見上げながら男たちに媚びを売る それでもひとたび竜の笛が鳴ったなら 死者たちの霊とともに紳士淑女に舞い戻る 彼女の唇が厳かに笛に触れると 人々は背筋を伸ばして固唾を飲む 張りつめた厳粛な大気のさなか 彼女は静かに白馬に近づいていく 薄化粧のおもては水色の蝶のように儚げで しなやかにくねる腰の艶かしさは雌ぎつねのよう 好奇の狭間を王妃の乗った馬がしとやかに歩むと 若い女たちは泣くような声を響かせ 中年の男たちは目を潤ませて敬礼し 老人たちはひざまずいて手を合わせる 王妃の流し目には慈しみが湛えられ それは幾千ものオレンジの香りと混じりあって１つの夢となり 少年たちの甘やかな夢想が月夜の下まどろんでいる

■ 桜庭雪さんの作品一覧

愛すべきせわしなさ [心の詩] 124view [20/09/01 06:02] 感想(0)

友とともにー没落の夕暮れ [心の詩] 111view [20/09/01 06:01] 感想(0)

未だ見ぬ明日の日々へと [心の詩] 109view [20/09/03 12:27] 感想(0)

世界は秋風のようなもの [心の詩] 101view [20/09/29 07:59] 感想(0)

親の脛をかじっていようとも、朝は来る [心の詩] 127view [21/03/30 08:39] 感想(0)

星形の砂 [心の詩] 111view [20/12/02 12:47] 感想(1)

あるかなきかの水滴 [心の詩] 87view [20/12/04 12:35] 感想(0)

善でもなく悪でもなく ―あの日の診察室― [心の詩] 107view [21/06/18 18:46] 感想(0)

冬の夢 [心の詩] 124view [20/12/21 12:11] 感想(0)

冬の夢に捧ぐ [心の詩] 135view [21/06/18 19:04] 感想(0)

ひたむきな右頬 [心の詩] 79view [20/12/25 12:20] 感想(0)

お茶を点てるや降る小雨 [心の詩] 92view [20/12/26 11:29] 感想(1)

いつも夏を見ていた [心の詩] 81view [20/12/29 12:55] 感想(0)

「ロマンティックあげるよ」に寄せて [心の詩] 100view [21/06/18 18:55] 感想(0)

満天星のなか(「FF10 from Zanarkand」に寄せて) [心の詩] 100view [20/12/30 17:45] 感想(0)

オオルリ [心の詩] 96view [21/01/05 18:02] 感想(0)

自分の幸せくらい [心の詩] 109view [21/01/14 19:52] 感想(3)

テイルズオブベルセリア「Silver Flame」推し [心の詩] 85view [21/01/17 14:38] 感想(0)

日々に仕えさせてもらっている [心の詩] 79view [21/06/17 18:46] 感想(0)

女騎士の休日 [心の詩] 84view [21/01/28 12:20] 感想(0)

昔見ていた夢がある [心の詩] 91view [21/02/01 06:16] 感想(0)

移ろいゆく歳月だけが [心の詩] 91view [21/02/01 17:27] 感想(0)

へとへとに疲れた僕らの、あの日は [心の詩] 80view [21/06/17 18:04] 感想(0)

風の行き先 [心の詩] 117view [21/02/19 12:54] 感想(2)

頬に触れるや去っていく [心の詩] 92view [21/02/22 15:21] 感想(2)

時の回廊 [心の詩] 86view [21/02/26 08:23] 感想(0)

去年の６月頃の、中国に対する香港のデモ [心の詩] 48view [21/03/13 10:17] 感想(1)

こんな僕にも世界の広さを伝えてくれる [心の詩] 39view [21/03/13 17:09] 感想(0)

幾千夜を超えた朝 [心の詩] 44view [21/03/22 17:33] 感想(0)

「哀しいね」 [心の詩] 48view [21/03/25 06:13] 感想(2)

狂おしいほどにやわらかな [心の詩] 30view [21/03/26 06:15] 感想(0)

わたしは航海士 [心の詩] 30view [21/03/28 17:31] 感想(0)

哀と愛 [心の詩] 30view [21/03/29 10:40] 感想(0)

日中ずっと１人にしてごめんね [心の詩] 40view [21/03/29 18:45] 感想(1)

月と友人であるかのような女性だった [心の詩] 65view [21/04/16 06:39] 感想(0)

憂いも哀しみもみな包み込んだ笑顔 [心の詩] 28view [21/06/23 20:21] 感想(0)

月の光そよぐ [心の詩] 29view [21/04/19 22:05] 感想(0)

砂漠で滅んだ王族の末裔 [心の詩] 53view [21/04/20 07:13] 感想(1)

季節を宿す旅人 [心の詩] 46view [21/06/17 18:02] 感想(0)

愁いを知らぬ新芽たちの日々 [心の詩] 78view [21/04/25 08:46] 感想(0)

蛙たちの音(ね) [心の詩] 28view [21/04/25 17:10] 感想(0)

夏影に吹く風 [心の詩] 45view [21/04/26 07:17] 感想(0)

穏やかな春風にさえ哀しみを [心の詩] 37view [21/05/05 11:49] 感想(0)

嘲り顔がこんなにもさわやかだなんで [心の詩] 43view [21/05/07 07:57] 感想(0)

昔働いていたa型作業所に顔を出した話 [心の詩] 39view [21/06/20 08:29] 感想(0)

償いの形 [心の詩] 56view [21/05/26 20:52] 感想(0)

小説から遠く離れて [心の詩] 89view [21/06/01 08:42] 感想(1)

エレノア･ヒューム [心の詩] 38view [21/06/18 20:59] 感想(0)

公園でゆっくりとブランコを漕ぐ彼女 [心の詩] 42view [21/06/07 04:03] 感想(1)

記憶の大地の彼方で [心の詩] 25view [21/06/13 19:54] 感想(0)

わたしの背を見つめる雪 [心の詩] 78view [21/06/16 20:41] 感想(0)

小さな北国の町の門 [心の詩] 37view [21/06/20 04:00] 感想(0)

パイをわたしが譲ることになろうとも [心の詩] 35view [21/06/26 13:10] 感想(0)

その朝の大気に親しくなるようにして [心の詩] 37view [21/06/27 18:59] 感想(1)

「お嬢ちゃん、出港だよー！」 [心の詩] 31view [21/06/29 06:32] 感想(0)

どこの国でもない、はるかなる緑の丘から [心の詩] 33view [21/06/29 19:03] 感想(0)

あまりに鮮やかな表象 [心の詩] 28view [21/06/30 16:32] 感想(0)

呆れるくらいに情感豊かに [心の詩] 39view [21/07/01 07:52] 感想(0)

「人生、そんなにロマンチックにできちゃいないさ」 [心の詩] 28view [21/07/04 15:51] 感想(0)

彼は僕のことをクズと言った [心の詩] 42view [21/07/07 19:42] 感想(0)

人々の日々を記録するための旅 [心の詩] 28view [21/07/10 19:17] 感想(0)

細い腰がしなりながら泳いでいる [心の詩] 33view [21/07/12 06:39] 感想(0)

「お元気で！」 [心の詩] 32view [21/07/14 17:08] 感想(0)

愛すべきシンプルさ(改) [心の詩] 34view [21/07/19 12:08] 感想(0)

文章を読み返していて思うのは [心の詩] 40view [21/07/19 19:29] 感想(0)

くん付けで呼べるようになった話 [心の詩] 19view [21/07/21 19:50] 感想(0)

若かりし倉木麻衣が踊っていた [心の詩] 26view [21/07/23 10:23] 感想(0)

両親がアパートにやって来た話 [心の詩] 95view [21/07/24 18:08] 感想(0)

真摯な落書き(渋谷の落書きより) [心の詩] 30view [21/07/25 18:57] 感想(0)

睡眠不足と心の襟元 [心の詩] 21view [21/07/26 06:32] 感想(0)

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