ポエム
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決壊する前に、何が、堤防が
「・・佐伯はさぁ、人殺し、どー思う?」。
 ひぐらしの合唱が耳をつんざく夏の日。君は言った。憎くなるくらい真っ青な空、そんな空を転写したかのような海の堤防の上。グツグツと煮え盛る卵の黄身のような太陽。一瞬、時が止まったかのように僕の心臓を流れる、身体中を流れる血液が停止した。
「どうって、そんな、悪いことだと、思う、よ。」
そう返すと、君は溶けかけのアイスを袋から取り出した。
「やべ・・・忘れてた。」
まるで僕の言葉なんて聞こえていないかのように。
「悪いこと、な。」
「急にどうしたの・・・。」
君の首に滴るアイスか汗かわからない液体をすくう
「あっちぃな、みんなあっちぃんだよ。こわぇよ、なんであんなにあっちぃんだよ。」
「僕も、あつい?」
すると君のひやりとした指が僕の唇に触れた。
「佐伯もあちぃ、あちぃ、けど、俺の好きなあつさ。」
熱を逃がすかのように僕の唇に触れる手を握りしめた。目を閉じると涙が出てきそう。
「じゃぁさ、もし人殺しにどうしようもない理由があったら?」
思いもよらない問いかけに僕は目をパチパチさせる。
「例えば、犯人は常日頃からひじめられてて、その拍子につい、みたいな。そう考えると、この殺人って自己防衛ともとれるよ、な。そうだよなぁ・・?」
君の顔がだんだん太陽に溶かされる。
「君は何も悪くないよ、君は悪くないよ。」
気がつくとアイスは落っこちちゃってて、コンクリートに吸いとられていた。近くにある踏み切りがカンカンと僕らに警鐘を鳴らす。君は僕の胸にうずくまったまま、何も言わない。聞こえるのは電車の通過音に誰かの心拍音。
「あぁ、このままお前と死ねたらいいのに・・・。」
ミーンミンミンミーーーーーーーン。
「じゃあ、死ぬ?」
「は」
そのまままっ逆さまに、海に、空に、太陽に、僕らはこの身を差し出した。叫び声と共に。
22/07/27 13:13更新 / わたし



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