夜霧に溶ける硫黄の匂い
「こんな冷える晩は夜霧が立ちさうだね」
「待ちねえ、外に行く気か
それはやめたはうが良い
……遠くから聴こえないかい」
……ポクポクポクポク…
言はれて耳をすませば遠くからシステマテイツクな音がする
合はせて太鼓や篠笛、神楽鈴のやうな音も聴こえてきた
ふつと燈りが消えたと思ふと、ぼうつと男の顔が浮かび上がる
吐息とともに煙草の匂ひが広がる
しかし煙草ではない嫌あな匂ひが鼻を突く
これは……さうだ、髪を焦がしたときのやうな……
「じつとするんだよ……」
太鼓の音がドンドンドンドンと大きくなる
女の歌声か泣き声とも分からない咆哮もする
シャンシャンシャンシャン
心臟の音が太鼓の音と判別がつかない
なにかに足を踏まれる氣すらする
私はただ息を殺した……
心音を鼓音と誤解していたのに気づく頃、私は衣が擦れぬやう男のはうを向ひた
だが、ぽつかり空いた穴でもあつたかのやうに、熱を感じることはなかつた
熱を恋しがるかのやうに冷たい風が吹き抜ける
その風は灰皿にあつた煙草の火を消していつた
「待ちねえ、外に行く気か
それはやめたはうが良い
……遠くから聴こえないかい」
……ポクポクポクポク…
言はれて耳をすませば遠くからシステマテイツクな音がする
合はせて太鼓や篠笛、神楽鈴のやうな音も聴こえてきた
ふつと燈りが消えたと思ふと、ぼうつと男の顔が浮かび上がる
吐息とともに煙草の匂ひが広がる
しかし煙草ではない嫌あな匂ひが鼻を突く
これは……さうだ、髪を焦がしたときのやうな……
「じつとするんだよ……」
太鼓の音がドンドンドンドンと大きくなる
女の歌声か泣き声とも分からない咆哮もする
シャンシャンシャンシャン
心臟の音が太鼓の音と判別がつかない
なにかに足を踏まれる氣すらする
私はただ息を殺した……
心音を鼓音と誤解していたのに気づく頃、私は衣が擦れぬやう男のはうを向ひた
だが、ぽつかり空いた穴でもあつたかのやうに、熱を感じることはなかつた
熱を恋しがるかのやうに冷たい風が吹き抜ける
その風は灰皿にあつた煙草の火を消していつた