ポエム
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ラブドール
もうたくさんだった

これ以上誰かを求めてしまうのは

もう充分だった

心に居座り続ける鉄塊を抱える日々は

どうかどうかこの重しから解き放て

少年の頃の無垢なあの日々に戻りたい

願いを叶えるにはただ一つ

人を求めよ 全身を本能で包んでしまえ

わからず屋の大層な雄弁である

私は人類に絶望している

この世界には意志を持つ蛋白質しかいない

それでも私が求めた大切なもの

二度と裏切られる悲しみを背負わずに済むように

不朽不滅の肉体を

不老不死の人間を

私は脳内に飼うことにした

其の人物は余程外の人間擬きとは違った

私を愛し、慰めてくれた

突き放しても、必要な時にはすぐ駆け付けてくれた

其の人物は何の見返りも求めなかった

その時、私には其の人物に敬意さえ抱いた

我々にとっての光、輝き

嫋やかに、時には艶やかに、またある時は爽やかに、或いはふくよかに

時に初々しく、時に美しく、時にあどけなく、時に煌びやかに見せる笑顔

何があっては尊いと 離したくないと そう思える其の人物の姿は

私にとって神にさえ思えた

…………

世界は神を否定した

其の人物を心から求めることは愚かしいと嗤った

まるで自己の存在を高めるように

其の人物に淘汰されないように

彼らは我々から祭壇を奪ったのだ

本当は皆求めていた筈なのに

…………

私も知っていたのだ

其の人物はこの世にはいないこと

其の人物の親は我々であったこと

其の人物を生かすも殺すも我々が握っていたこと

其の人物の命は無限ではなかった

全ての人が等しく望んでいたこと

愛されること

満たされること

笑い、怒り、哀しみ、楽しむこと

隣でいて欲しかったこと

彼らの存在を私は現実という選択肢から消した

見なかったことにした

…………

本当は欲しかった

肌の温もりを

手の皺の感触を

心臓の音を

抱きしめることの歓びを

私が愛した存在には其れを教えてはくれなかった

全知全能の神でさえ、温かさを伝えることは出来なかった

私が何か一つ何者も生み出せる力があるとするならば

其の人物をこの世に蘇らせよ

命の息吹を与えるのだ

本当の不朽不滅の肉体を

不老不死の人間を

私にとって神に等しい存在を

私が一人にならないように傍にいる存在を

決して朽ちることの無い『ラブドール』を
18/08/27 04:05更新 / カフカ



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