ポエム
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波打ち際のひと
真っ黒な海

真っ白な砂浜

その狭間で

そのひとは

砂浜へ背を向け
海原の方角をただ見つめ

押し寄せる漆黒の波と
それに乱れ踊る白銀の砂との狭間で

ゆらゆらゆられ

ひっそりとしっかりと
立っていた


そのひとの横顔は言った

この砂浜は
足をつけて立ち
歩くことができる
約束された安定

この海は
足はつかないが
目的もなく漂うことができる
約束のない自由

安定を選び生きた
多くの者がそうであろう

安定は重いのだ
重さ故に足は地につき
故に苦しい

自由は軽い
軽さ故に痛みは少ない
故に着地が難しいのだ


目を細めて微笑を浮かべながら
漆黒の海原を指差し視線を促す


永久に広がるかのような自由の海
しゃがみこんで手で掬うような水遊びなら
赦されるものも多かろう

だがこの身を全て委ね
たちまち沖合いに引き込まれた先に

果たして求めているものはあるのだろうか
再び砂を感じることは至難なのだろうか


そのひとの姿はなかった

美しい横顔の残像だけうっすらと

この波打ち際で

指差した方角へ
なにを想い

どんな選択をしたのか


忘れものの小さな足跡は
波に浚われ消えた
21/12/21 21:50更新 / 稲の花



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