点滅と存在
階段を降りるとあの子がいて、
赤い点滅を背に
笑っている。
僕が手を伸ばすと、
あの子も手を伸ばす。
その時点で僕は、
二人が触れ合うことはできないと
確信する。
天井からもれる光が
二人を非対称に照らし、
時の違いを訴える。
あの子は笑うのをやめた。
一歩近寄ると後ずさり、
切なげな表情で首をふる。
人さし指を立て、
鼻のしたにやる。
僕はそれを見て
息をとめていく。
あの子がなにを語りたいのか、
その理解に集中する。
天井がわれて、
水が流れだしてくる。
それほど多くないと
思ったのに、
水は僕らを飲み込んでいく。
下半身を超え、
そして顔にいたり、
やがて飲み込まれる。
僕は必死に手足を動かす。
あの子は動かない。
もとの位置に立っている。
水の中にいるというより、
水が彼女のなかにいる。
僕はあの子の中にいる。
赤い点滅が鳴り響く。
僕は点滅しない。
あの子は………
あの子は………
僕はいる、
自分の点滅のなかに。
誰の点滅にも揺らがない。
僕は僕の点滅を維持する。