ポエム
[TOP]
ビーフシチュー
誕生日の前日の夕方
仕事終わりの母から電話がかかってきた
「誕生日 何が欲しい?」
もう僕は成人だし 
なにより 自分の病気より
家庭を優先する母に
自分勝手に生きてきた僕が
親孝行なんてロクにしてこなかった僕が
何かをねだっていいはずがない
そう思って
「何もしなくていいよ」
と答えた

母は「それでも何かしてあげたい」
と言った
病気で身体も心もボロボロで
腹を痛めて産んだ息子は 
現実から目を背け夢を見続けるろくでなし
最近は特に母とうまくいってなかった
顔を合わせれば喧嘩ばかりだった

そんな母が優しくしてくれて
少しだけワガママを言いたいと思った
僕は昔から「ビーフシチューを家で食べたい」
という小さな憧れがあった
レトルトじゃない 手作りのものだ
母は料理上手だ
だから伝えた
「母の作ったビーフシチューが食べてみたい」
母は二つ返事で
「よしわかった」と言ってくれた

その日の晩から仕込みを始め
迎えた誕生日の晩
昼間から夕方まで友人と遊び帰宅した僕は
昼頃カフェでパフェをお腹いっぱい食べたはずなのに
お腹がとても空いていた
お皿に盛り付け 
おしゃれに生クリームを
垂らされたビーフシチュー
一口食べて 涙が溢れた
初めて 母の手料理で泣いた
優しい味だった

母は「毎年の誕生日の恒例にできるようにしよう」と笑ってた
僕は高校を辞めた頃から
誕生日が嫌いだった
でも近年は 段々「悪くないな」くらいには思えていた
でも来年からはきっと
誕生日が近づくたびに
「楽しみだな」
って思えるんだろう

ビーフシチュー 鳥山あゆむ
22/11/14 18:38更新 / 言欲



談話室



■作者メッセージ
先日 12日は僕の誕生日でした。
ビーフシチュー、また食べられるように一年頑張ります。

TOP | 感想 | メール登録


まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.35c