ひぐらしは毒虫だ
彼らの鳴き声は
夏という毒を僕らの耳から
脳味噌に染み込ませる
夏は想うだけで苦しい　毒なんだ

繁忙期のバイトを終え
家に帰って寝たのは深夜だった
月を眺めて煙草を吸って
シャワーを浴びたら
ビールをあおって眠るだけ
いつもと何も変わらない夜だった

目を覚ましたのは夕方だった
身体に違和感を覚えた
起きあがろうにも　起き上がれない
手足が妙に多く感じる
うめき声を上げたと思った口が発したのは
カナカナ… って鳴き声ひとつ
昨晩の夢に出てきたあいつを思い出す
『ひぐらしは毒虫だ』
ああ　そうか
僕は毒虫になったんだ
大きな大きな毒虫に

バイトのことも
将来のことも
出来かけの曲のことも
全部全部どうでもよくなった
ひぐらしになったんだ
あいつの脳味噌に　
これでもかってくらい
毒を染み込ませてやろう

開けっ放しの窓から飛び出して
僕はトラックに突っ込んだ

ひぐらし　鳥山あゆむ

■作者メッセージ
夏ですね。
暑いのはきらい。