ポエム
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ちいさな旅のおはなし
光を知らぬ少女がいた
杖つき歩く
色を知らぬ少女がいた
言葉の意味しかわからない
世界を知らぬ少女がいた
美しさも醜さも知らぬ
己を知らぬ少女がいた
鏡は少女の前では意味をなさず

少女は荒野を歩いていた
目的なんてない ただなんとなく
ふと 目の前に気配を感じた
恐る恐る 声を発す
世の中には 優しい人より
非道い人の方が多いから
「何か、御用でしょうか」
ため息 そして
『君は目が見えないのだね』
透き通るような女の声だった

『君にささやかなプレゼントだ』
使えない目のあたりに温もりを感じる
『目を開けてごらん』
どうせ見えやしないのに 何を
そう思いながらも目を開ける
息を呑んだ 
広がる砂原 煌めくオアシス 澄んだ空
生まれて初めて見る景色だった
『どうだい?美しいものだろう?』
声だけが聞こえた 
世界を知った少女の前には
誰もいない

それからはひたすら旅をし
旅先の絵を描いた
絵を売って小銭を稼ぎ
また旅をした
少女に世界を魅せたあの女性を探して
姿はわからずとも 声だけは覚えている

どれくらい時が経っただろう
海の見える丘の上
小さな小屋の外の椅子に
ひとり黄昏れる女性を見つけた
しゃがれてしまった声で
少女だった老婆は声をかける
「良い景色ですね」と
『ええ、とても』
眺めながら返す女性の声は 
とても澄んでいた

「やっと見つけた」
女性は振り返る
『君は…あの時の…」
世界に魅せられた日から変わらぬ声
「私に世界を教えてくれてありがとう」 
やっと伝えられた言葉に老婆は涙を溢す
『まあ座りなよ』
美しい景色の前
椅子に座り 旅の話を終えて
老婆は旅を終えた

ちいさな旅のおはなし 鳥山あゆむ
21/04/03 02:01更新 / 言欲



談話室



■作者メッセージ
はい。658文字。
「鳥山さん!それもはや小説ですよ!」シリーズは第何弾になっただろうか。
ずっと温めてたネタ。
ほっこりしてもらえたら嬉しいです。

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