田村カフカ少年と同い年だったあの時
彼の旅に　ひどく魅了されたのを覚えている
僕の中にカラスはいないし　
生き別れた姉や母なんていやしない
呪いなんてかけられていない
どんなに旅をしても　
僕は田村カフカのようにはなれない

あの旅に憧れた　
あの体験に憧れた
あれはつくりものなんかじゃあない
読んでいる間　僕は確かに彼に
田村カフカになっていたんだ
今でもそう思ってる

本を閉じて　夢から覚めたあの瞬間を今でも覚えてる
今まで読んだどんな本よりも　寂しい気持ちになった
君もああなりたいんだろ　でも　君はなれないよ
僕の中のいもしないカラスが　そう言っている気がした

僕はあれから　大人になれただろうか
いつまでも　憧れに縛られて
立ち止まり　悩んでいる
僕はやはり　彼にはなれない

人生を変えた小説　鳥山渉

■作者メッセージ
中学3年生の時　初めて読んだ村上春樹の作品が　海辺のカフカだった
あれから　旅をすることに憧れた
時々　貯めたお金を使って行ってみたいところにひとりで行くようになった
どんなに旅をしても　僕はやはり僕で　彼にはなれなかった
でも　得たものがないわけじゃない
無駄じゃなかった