ポエム
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崩潰という名の再生

深い夜 風の音もない静謐に包まれて
ここが唯一の安寧とばかりに潜り込む
あたたかな毛布がやさしい
その慈しみを握る両手が ふいに力む
天井を見つめた眼球が 小刻みに震えだし
唐突に安らぎを跳ね除けて
不安定な脚立に乗り パテを手にして
それを埋める

埋めても埋めても現れる
ここにいるぞと主張する

深く長く大きくなっているそれは
誰の目にも映らぬ 切傷
付けた当人ですら 知らぬ創
唯一の安寧を脅かす 唯一の瑕疵

埋めても埋めても終わらない
埋めても埋めても無くならない

深い夜 仮初の安堵から切り離されて
冷え切った慈悲の上に 倒れこむ
さまよう瞳はどうすべきかを知っている
疲弊が巣食う肉体を置き去りにして
迷子のような意識を旅立たせるか
溢れる無情で傷の様相を滲ませるほかない

すっかり補修のされなくなった天井に
生きている傷がゆっくりと亀裂を走らせる
蜘蛛の巣のごとく張り巡るのは時間の問題であり

バラバラに崩れ落ち やがて
置いて行かれた柔らかな器は
一万日以上もずっと 待ち侘びていたかのように
鋭利な瓦礫に肉片を飛び散らせながら
それを抱きしめることだろう


25/07/06 18:25更新 / rin



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