ポエム
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毒が届くまでの時間
"正午"と耳にして
あなたなら
何を思い浮かべるだろうか?

お昼ご飯やサイレン
はたまた
針の重なりあった時計のイメージ

僕が語ろうとしているのは
長崎に住む或る作家のことである
彼は名を"佐藤正午"という


今僕の手許には一冊の文庫本がある
最後のページには
二〇十ハ年一月九日、初版第一刷発行とある

僕がこの本を買ったのが2月末
つまりこの本は3年間も書店の棚で
読み手を待ち続けていたという訳だ

最初に世に出たのが2014年で
さらに言えば雑誌での連載の開始は
2011年までさかのぼる


実に十年である
作家の生み出した物語が
或る一人の読者に届くまでの時間

十年前に彼が最初の一行を書き出す時間軸
十年後に僕が最初の一行を目で追う時間軸
それらを一点に繋ぎ得るのが本という媒体物である

この物語を読んでいるのは
十年前の自分なのだろうか?
そんなはずがないとも言い切れない


物語は時間を超越する
いとも容易く軽々と
窓辺の鳩の如く

時間を忘れるというレベルではなく
よもや時間という概念から切り離された
独立世界とでも表現する他ない

遥か昔から人間は
この"物語"という"毒"を受け入れてきた
そしてその毒を糧に生きてきた



語り継がれる限り
物語に死はない
撃退も不可である










21/05/12 00:23更新 / はともみじ



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