入道雲
強風が二度もベルを鳴らす
すきま風に煽られたシルクのレース
踊り狂わんと軽やかに舞う
沈黙だけが僕と君との誤差を埋める
礼儀正しい傍聴人みたいに
ふと意識は宙を游ぐ
今この部屋に吹く風は
何処か遠くの海の上で生まれ
幾日もの旅を経て
辿り着いたのであろうか
目を閉じ潮の名残を想う
肺の奥にまで届くよう
深く息を吸い込む
体内塩分濃度の
微量なる上昇
意識は現実へと帰還する
相変わらず君は
俯いたままで嗚咽をもらす
耐えきれぬ僕は
天井を仰いで溜め息を一つ
外では風の唸り声
僕は切に願う
この部屋中を充たす
捉えようのない空虚を
吹き飛ばしてくれと
恐怖が入道雲のヴェールを濡らす