ポエム
[TOP]


私はこれから杭にならねばならない
祖達を苦しめる鎖を断ち切らんがため
子らを導く標(しるし)とならんがため
身の果つる時まで地に立ち続けるのだ

風に裂かれても厭わぬ
雨に打たれても怯まぬ
雷鎚が身を焼こうとも
この葦は抜かれることはない

私は忘れぬ
踏みにじられた声を
置き去りにされた願いを
石の下で眠る夢たちを

土に埋もれし嘆きの骨よ
水に溶けし伝子の記憶よ
空に還れぬ叫びの血潮よ
私が汝らの代わりに吼えよう

杭は動かず
杭は支える
杭は抗う
杭は刺さったまま
腐ってもじっと留まる

この地が震えようとも
言葉が嘲られようとも
真実が泥の奥深く沈もうとも
杭は真っ直ぐに在り続ける

私は道をつくるのではない
道を留めるのだ
踏みにじられた土を再び
歩くために
子らが血を踏まずに歩くために

杭として、私は願わぬ
褒賞も賞賛も墓標も
ただ
誰かが振り返ったとき
「ここに杭があった」と思えばよい

私は杭として
風景の一色になろう
名を失い
顔を消されても
意思だけが残る杭となろう

夜が濃くなるなら
私は夜の徴しとなろう
人が進めぬ闇の中で
微かな引っ掛かりとなろう

私はもう、夢を見ぬ
けれど
夢見る者の邪魔をせず
むしろ支える
その脆い翼が折れぬように

杭には足がない
だが杭は歩く者を支える
杭には目がない
だが杭は見張る者を補う
杭には声がない
だが杭は沈黙で説き伏す

倒れし者の傍らに
私は刺さろう
彼が起き上がれるよう
ただそこに寄り添おう

杭よ、杭よ、なぜ地に打たれるか
杭よ、杭よ、なぜ空を仰がぬか
杭は誇らず
杭は叫ばず
杭はただ、地に生きて死する

人が杭を打つのではない
杭が人を奮い立たせるのだ
逆なのだ
杭とは選ばれるものではなく
選ぶものなのだ

私は選んだ
この地を
この時代を
この痛みを
この覚悟を

私は杭

名もなき礎
沈黙の灯火
声なき抵抗
忘却の案内

果てし後
私を見て気づくだろう
「ここにいた」と
「ここを留めた」と

それでいい
それだけでいい

杭は
音もなく
来生を貫く
25/06/13 19:13更新 / はともみじ



談話室

TOP | 感想 | メール登録


まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.35c