ポエム
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僕だけの 奏(かなで)
昨日も 今日も 同じ毎日が
僕を責める

四角い窓だけがある
一角のベッドで身を潜(ひそ)める

このままじゃあ 底なし沼に
足を すくわれたまま

時間も 昼も夜も
分からなくなるよ
自分が どんどん見えなくなる

人のまぶしい笑顔に
目を そらしていたけれど

この重い扉(とびら) 開いて
外へと 飛び出した


どこへ行けばいい ?
ただ 遠くへ行きたい
そうだ! なら、電車に乗ろう

線路づたいに 駅を見つけ
目の前に 止まった電車に乗った

とにかく どこかへ行きたい
けど どこへ ?
軋(きし)みながら 電車は走る


行くあても ないままに
窓の景色は 変わっていく

僕の希望の場所は どこ ?
僕を求めている人は 誰 ?

まばらな座席の中
想いだけが ふくらむ

ぼぅ〜と かすみ行く 景色の中
アーケード街の向こう
オレンジ色の建物が
光って見えた

そうだ! あそこへ行ってみたい
車内アナウンスに ふと我にかえり
次の駅で降りようと 思い立った


何が 待っているのか 分からない
けど 希望の扉が 開くように
目の前のドアが 開いた

きっと何かが 待っている
そう信じて あの建物をめざし
ホームへ足を 踏み入れた


それからは 彷徨(さまよ)うように
ただ 歩き続けた

こっちは 違う!
いや あっちだ!

重たい足を 引きづりながら
ひたすら歩き
やっと アーケード街に入った

道行く人達の 笑顔が つらい
手を繋ぎ 話しに
夢中になっているカップル

両手に 買い物袋を
いっぱい さげて
黙々と 歩く老人

皆 僕には 人ごとのように
遠い世界に 見えた

人混みの中 僕は 胸が苦しくなる
けど もう少し  
あと もう少し 歩いてみよう


すると 途中に見えた 大きな広場

ここで休もう
そう思い ベンチへ向かうと
一台の グランドピアノが 目に入った

ピアノの前には
”ご自由に お弾(ひ)き下さい”
と 小さな立て看板

”昔は 何度も 弾いたはずだろ”
”時間を忘れるくらいに ”

そうピアノが 問いかけてる かのようで
気がつけば 僕は
赤いイスに そっと座っていた

ツートンカラーの まぶしい鍵盤(けんばん)
引き寄せられるように
指を のせれば
懐かしい 感触が よみがえる

ドの音を 何度か たたく
すると 目の奥で 覚えている
にぎやかな五線譜(ごせんふ)が 浮かぶ

いつしか 僕は 必死に
鍵盤(けんばん)を たたき始めた


奏で始めて
どのくらい 経(た)っただろう

耳元の 遠くで
拍手が ひとつ ふたつ 聞こえ出す

僕は 歓喜を 覚え
奏で続けた

こんな僕にも
人を喜ばせること出来るなんて
何年ぶりの感動だろう

もう 指先は 止まらない
心 踊り
身体ごと 拍手のリズムに乗って
奏で続けた

そして 五線譜(ごせんふ)の
最後の1小節で
Fade Out(フェード・アウト)

静かに 指を 降(お)ろすと

止まない 拍手と
響き渡る歓声 のシャワー

ベンチで座っていた 人達が立ち上がり
微笑み いっぱい 投げかけてくれた

人の笑顔に こんなに
馴染(なじ)めるなんて

今 僕の中で 音をたてて
何かが 変わった

僕を 必要としてくれた人がいた
ここに こんなに たくさんの人が

生きてる意味が 分かったよ!
僕には 奏でることが 出来たんだ

分かったよ 分かったよ
忘れかけていた ありがとうの言葉
胸の中で 繰り返す

頬をつたった 心の汗が
鍵盤(けんばん)の上に 落ちた

生きていることの意味を
本当に 本当に ありがとう

自信をくれた人達に
心を込めて
おじぎを したよ
ありったけの ポーズをとって

最高の スタンディング・オーベーションを
皆さま どうも ありがとう!
20/08/23 21:57更新 / スミレ



談話室



■作者メッセージ
長編となりましたが
この作品は、私の中で
一番大切にしている詞(物語)です。
約6ヵ月前に 書いたものです。
もうこれ以上のモノは自分の中では
書けないと思いました。

自分の価値観が分からなくて
時間が 止まってしまった青年

さ迷い続けて さ迷い求めて
けれど 疲れ果てた末
多くの人から
必要とされたことで… …

どうしても 最後は
感動の締めくくりに したくて
一生懸命 書いてみました (*´-`)

最後まで お読み頂き
ありがとうございました┏○))ペコリ

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