ポエム
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春を売る。
僕は孤独に満たされていた。
透明な月夜に、一人眠っていたのだ。

孤独は奪われ月は霞んだ。
何も僕を満たさない。

だから僕は春を売っている。
対価は言葉だ。
なんの価値もない言葉だ。

しかし僕はまた春を売る。

他人の愛を捨てられないから売っている。
"君だけだ"と君を騙す。
"僕の意志だ"と君を騙す。
そういうふうに売っているのだ。

春が来たと咲くその顔が、醜くてならない。
蕾の解けるその時が、苦しくてならない。
雪の流れて笑うその音が、鬱陶しくてならない。

春を売っている。
他人の手を払えないから売っている。
朝を仰いで彼奴を騙す。
花を持たせて彼奴を騙す。

春を売っている。

山のうしろに立ちゆく烟を見て哀れむ。

ただ一人眠っていたいだけなのに。
22/09/01 21:54更新 / カンパネルラ



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