ポエム
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手紙〜貴女へ、そして母へ〜
貴女は小学生の私を置いて突然家を出た。
そして、それきり帰る事は無かった。

離婚の手続きが上手くいかなかったのだろう。
18歳の時、市役所で会った事も無い妹の存在を知った。

首を縦に振らない父親に対して
裁判を起こす事を決めた貴女は、
怒った祖母の要望により私に手紙を書いた。

その手紙は読まずにゴミ箱に捨てた。

せがまれて書いた手紙など
読む必要も無いと思ったからだ。

ただ、私は貴女を恨んではいない。

今思えば、色々な事情があったのだろう。

職を転々とする父親にも不満を持っていただろうし、
貴女なりに悩んだ末の決断だったのかもしれない。

それに、私には貴女の温もりの記憶がある。

不注意で熱湯を浴びかけた私を庇って、
貴女は腕に火傷を負った。

いつも怒ってばかりの貴女だったが、あの時だけは
「大丈夫?」と、優しく笑って声をかけてくれた。

そこには確かに母としての愛情があったと思う。

多分、一生忘れる事は無いだろう。

だから、私は貴女を恨んではいない。

でも、貴女を母と呼ぶ事は二度とない。

私には、今まで育ててくれた母がいるから。

今も育ててくれている母がいるから。

怒り、悲しみ、泣き、そして笑い、

いつも一緒にいてくれた母がいるから。

貴女は、私を生んでくれた人。

幸せに暮らしている事を、そっと願う。

母の日を忘れた振りをして、
毎年21日の誕生日にプレゼントを渡す。

もう花は買ってある。

夜が明けたら、最高の笑顔を見に行こう。

お婆ちゃん、いつもありがとう。









18/05/21 04:08更新 / Yuki



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